AI時代に“創造性”をどう定義するか 博報堂×東大「BranCo!」決勝レポート

東京大学と博報堂が共催するブランドデザインコンテスト「第14回 BranCo!(ブランコ)」の決勝プレゼンテーションが12月20日に東京大学駒場キャンパスで開催された。全国89校から149チーム、586人が参加し、「創造性」という抽象的なテーマに対して新しいブランドをデザインし、その企画の総合力を競った。本記事では、約半年にわたる選考を勝ち抜いたファイナリスト6チームの独創的な提案と、審査結果をレポートする。

企画の甲子園「BranCo!」、AI時代に正解のない問いに挑む人

BranCo!は、単なるビジネスコンテストやデザインコンテストではない。主催者である博報堂 執行役員であり東大教養学部特任教授の宮澤正憲氏は、その趣旨を「魅力的な“らしさ”の分析から、その具体的な設計までを一貫して行う企画の総合力を競うコンテスト」と説明する。そのあり方から、本コンテストは「企画の甲子園」とも呼ばれている。

コンテストの根底にあるのは、東大と博報堂が共同で運営する授業「ブランドデザインスタジオ」のコンセプト、「正解のない問いに、共に挑む」という思想だ。宮澤氏は、「社会に出ると正解のない問いしかなく、しかも一人でやるケースは少ない」と指摘。AIが進化し、正解のある問いには即座に答えを出せる現代において、このコンセプトの重要性はさらに増していると語る。

第14回のテーマ「創造性」に挑んだ6つのファイナリスト

今回のテーマは「創造性」。生成AIの台頭により、その本質が改めて問われる現代において、非常に今日的かつ難易度の高いテーマである。決勝には、二次審査を勝ち抜いた6チームが進出。「創造性」を独自に再定義し、具体的なブランドアイデアへと昇華させたプレゼンテーションを繰り広げた。

第14回テーマは「創造性」。過去も「人間らしさ」「幸せ」「普通」など抽象度の高いテーマが並ぶが、今年はブランドデザインコンテストのど真ん中のテーマで難しかったと各チームは語った

Sarasa:「日常を面白がる」から生まれた美術館体験

トップバッターのチーム「sarasa」は、「創造性を持て」という社会からのプレッシャーを「創造性ハラスメント」と呼び、高尚なものと捉えられがちな創造性を「みんなのものに」したいという思いから企画をスタートさせた。彼らが着目したのは、漫才師が日常の風景にツッコミを入れることでネタを生み出すプロセスである。ここから、創造性の本質を「日常を面白がる姿勢」であり、そのスイッチが「ツッコミ」にあると定義した。

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調査を進める中で、ツッコミは他者の目を意識すると生まれにくくなる一方、「ひとりごとツッコミ」は面白がることを加速させ、さらにSNSのコメント欄のように「連鎖する」性質を持つことを発見。この発見に基づき、彼らはツッコミが最も「眠らされている」場所として「美術館」に着目した。作品解説(キャプション)という「正解」や、静かに鑑賞すべきという「他者の目」がツッコミを阻害していると考えた。

そこで提案したのが、新感覚アート鑑賞サービス「面白画廊」だ。これは、スマートフォンのAR技術を活用し、鑑賞者が作品に対して音声で入力した「ツッコミ」を、他の鑑賞者と共有できるようにするサービスである。高尚な名画にツッコミを入れる体験を通じて、鑑賞者は日常のあらゆる物事を面白がる視点を手に入れることができる。創造性を誰もが実践できる身近なスキルとして解放する試みだ。

平行線:AI時代に「未完の美」を言葉で育む辞書

チーム「平行線」は、文章作成におけるAIの普及という現状からプレゼンテーションを開始した。大学生の約8割が文章作成にAIを利用し、その結果、約半数が「語彙力や表現力が落ちた」と感じているという調査結果を提示。AIが生成する文章を「正確でわかりやすいが、心に残りにくい」、人間が書く文章を「不完全であいまいだが、心に残る」と対比させ、その違いを「未完の美」というコンセプトで説明した。

彼らは、AIが完璧な言葉を生み出す時代に人間が発揮すべき創造性とは、「完璧な答えをあえて未完にし、受け手の経験や感情が入り込む余白を作る力」であると再定義した。この「崩す創造性」を育むための具体的なアウトプットとして、小学生を対象としたカスタム辞書アプリ「MiKAN」を提案した。

「MiKAN」は、アプリが提示する言葉に対し、ユーザーである小学生が自身の経験や感情に基づいてオリジナルの意味を与えるというものだ。例えば「孤独」という言葉に、辞書的な意味ではなく「みんながいるのに一人であること」といった自分だけの定義を書き込む。AIが当たり前にある世代だからこそ、AIに答えを委ねる前に、まず自分の言葉で考える姿勢を身につける必要がある。このアプリは、言葉の形成期にある子供たちの創造性が育つ土壌そのものを日常の中に作り出すことを目指すものである。

アメフラシ:「意味の読み替え」で街の魅力を再発見する

チーム「アメフラシ」は、創造性を「主観的創造性(作り手が何かを作り上げること)」と「客観的創造性(他者が作ったものを創造的だと感じること)」の二つのプロセスに分類。そして、この二つのプロセスの間で「意味の読み替え」が起きる点に注目した。例えば、ビーバーが自分の「巣」として作ったものが、人間にとっては治水に役立つ「ダム」として認識されるように、作り手の意図とは異なる価値が見出される現象こそが創造性の連鎖を生むと考え、これを「ビーバーフレームワーク」と名付けた。

このフレームワークを、現代の大学生が抱える「遊びのマンネリ化」という課題解決に応用。SNSで目的地を決めて移動する「スポット的な遊び方」では、訪れた街の本当の魅力を見過ごしているのではないかという問題意識から、街歩きの体験を再構築するサービス「where.i.was」を提案した。

このアプリは、ユーザーが街で見つけた面白いと思った形や色、素材を写真に撮ると、それが抽象的なモチーフに変換され、それらを自由に配置して一つのコラージュ作品を創作できるというもの。街並みという既存の創造物を、コラージュの「素材」として読み替えることで、見慣れた風景にも新たな魅力を発見できる。この体験は、ユーザーを「意味の読み替え」の当事者、すなわち「チームビーバー」の一員にすることを目指している。

奇創天外:田舎の若者を「村ハラ」から解放する新聞企画

チーム「奇創天外」は、創造の対義語である「模倣」に着目。人はなぜ模倣するのかを調査し、「模倣とは安心を選ぶ行為である」と結論付けた。その対極として、「創造とは不安を選ぶ行為である」と定義した。しかし、模倣による安心が蔓延する環境では、不安を選ぶハードルが上がってしまう。彼らは、その典型的な場所が「田舎」であると考えた。

田舎では、村社会の同調圧力によって安心を得ることが推奨され、若者が新たな挑戦をしようとすると「地元の企業に就職するのがいい」といった「おせっかい」、すなわち「村ハラ(村社会ハラスメント)」に遭う。これにより、若者の生き方の選択肢が狭められているという課題を設定した。

この課題を解決するために、田舎で強い影響力を持つ「お墨付き」の力を利用する。具体的には、田舎では絶大な信頼感を持つメディアである「地方新聞」と、地域の人々にとって特別な存在である「地元のスター」を掛け合わせたインタビュー記事ブランド「地産地創」を提案した。これは、夢を追う若者と地元のスターを並べて記事に掲載し、両者の共通点などを示すことで、若者の挑戦に「スターの絡み」という権威あるお墨付きを与える企画である。このお墨付きによって村ハラの空気を変え、若者が不安を選び、自らの生き方を創造できる社会を目指す。

学歴ぽっぷ!:「耳」の創造性を解放する音のおもちゃ

大阪芸術大学の学生で構成されるチーム「学歴ぽっぷ!」は、「創造性といえば我々のことだ」という力強いアスピレーションから出発。芸大生と一般大学生を比較し、創造性のある人々は幼少期に「自ら頭で考え、体を動かすことを楽しんでいた」という共通点を見出した。ここから、「創造性 = 想像性 × 身体性」と定義した。

さらに、創造性を発揮する際に使う五感について調査したところ、芸大生や教育者は「耳」を重要視する一方、一般的にはその重要性が見過ごされている「未開拓の地」であると発見。「耳でクリエイティブの世界が広がる」というコンセプトを打ち立てた。

一般大生(藝大・美大生以外)146人へのアンケートによると、目による情報からアイデアが浮かぶとの声が圧倒的に多い

このコンセプトを具現化するのが、身の回りの音をシャッターを切るように切り取る、3〜5歳児向けの新感覚おもちゃ「オトノコ」である。このおもちゃは、日常の様々な音を録音し、友だちと共有することができる。子どもたちは音を自由に収集し、組み合わせ、物語を作るなどして遊ぶ。教育者が「子どもは遊びのプロ」と語るように、遊び方を限定せず、子どもたちの自発的な創造性に委ねる設計となっている。イヤホンによって日常の生きた音が遮断されがちな現代において、子どもの頃から音に耳を傾ける体験を提供し、創造性の土台を育むことを目指す。

クマさん:「傷をつける怖さ」を乗り越えるカードゲーム

最終発表者のチーム「クマさん」は、「作ること」と「創造すること」の違いを、漢字の成り立ちから探求した。創造の「造」は「作」と同義だが、「創」という漢字に「傷をつける」という意味があることに着目。「創造性は傷をつけることによって生まれるのではないか」という仮説を立てた。

この仮説を検証するため、参加者に折り鶴と道具(ハサミやノリ、ホッチキスなど)を渡し、「より創造性があると思うものに変えてください」と依頼する調査を実施。その結果、多くの参加者がハサミを使って折り鶴に「傷をつける」ことで創造性を表現した。一方で、「すでにある完成されたものを壊すのが怖い」と感じ、手が止まってしまう人もいた。このことから、「形あるものに傷をつけるのは怖いことでもある」というインサイトを導き出した。

12人中8人がハサミを使って、折り紙の創作アレンジを行った

この「傷をつける怖さ」を乗り越えるには「練習して慣れる」ことが有効だと考え、そのためのブランドとして、手札のカードを傷つけて表現するボードゲーム「キッテハッテトッテ」を提案。プレイヤーは【寒い】などのお題に対し、配られた絵柄のカードをカッターやハサミで切ったり貼ったりして表現し、その出来栄えを競う。完成されたカードを物理的に傷つけるという行為への抵抗感を、ゲームを通じて乗り越える体験を提供する。苦しくて怖いこともある創造のプロセスを、練習によって楽しく前向きなものに変えていくことを目指す提案である。

【寒い】のお題に対して、ポスターの一部からペンギンを見立ててくりぬいて表現した

「布団は吹っ飛んだ」とダジャレで【寒い】を表現した

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