2011年、27歳の私はサンフランシスコにいました。日本のWebデザイン会社の職を辞して渡米し、起業のヒントを求めてシリコンバレーのデザイン会社で働いていたのです。当時はUberやInstagram といったスタートアップが創業したばかりのタイミングで、両社ともメンバーは10名ほどでしたが、急激な勢いで成長していました。街では毎日のようにピッチイベントが行われ、シリコンバレーは独特の熱気に包まれていました。
その熱を浴びながら、現地で生まれるプロダクトを見て分かったのは、「デザインが事業を成長させている」という事実でした。日本ではまだ「デザイン=見た目のこと」と思われていた時代に、シリコンバレーのスタートアップ起業家たちはデザインをビジネス戦略の柱として、洗練されたプロダクトのUIを磨き上げていました。その違いを目の当たりにし、私は確信しました。これからは日本でも、デザインが企業の成長を生む源泉になる。その想いを胸に帰国した私はデザイン会社のグッドパッチを創業。以来、この15年間でデザイン業界は加速度的に変化しました。
スマートフォンの普及とそれに伴うUI/UXデザインという新たなデザイン分野の台頭、DX領域でのデザインの重要性の高まり、経済産業省(以下、経産省)と特許庁による「デザイン経営」宣言。さらにデザインバックグラウンドを持ったスタートアップ起業家の登場、CDO(Chief Design Officer)など経営レイヤーで活躍するデザイナーの増加、ビッグテックやコンサルティングファームによるデザイン会社の買収など、デザインの注目度が高まり続けた15年だったとも言えます。
このビジネスの動きと呼応して、デザイナーのあり方やデザイナーを目指す人にも変化が見られます。私が若かった時代は、デザイナーは美大や芸大の出身者しかなることができない職業と思われていました。しかし、今の時代はデザインの専門教育を受けていない総合大学出身者でも、デザイナーという職業に就けるようになっています。「UXデザイナー」や「デザインストラテジスト」のような以前は見られなかった職種のデザイナーが登場し、デザイナーの枠組みは広がりました。コンサルタントのような経営戦略の立案や実行支援などに携わっていた人材がデザイナーとして働く事例も増えました。