味の素グループは2023年、経営計画「中期ASV経営2030ロードマップ」を発表し、同時に理念体系「Our Philosophy」を刷新した。その中核に据えられているのが、味の素グループ流のCSV(Creating Shared Value)である「Ajinomoto Group Creating Shared Value(ASV)」だ。
2025年11月開催の「宣伝会議サミット」(当社主催)で、同社人事部 Our Philosophy共感推進グループ グループ長の筧雅博氏が、創業の志から現在の人的資本経営に至るまでの思想と仕組みを解説した。
新パーパスを策定
筧氏はまず、味の素の創業に立ち返るところから話を始めた。昆布のうま味成分がグルタミン酸であることを発見した池田菊苗博士と、その発見を社会に実装した創業者・二代鈴木三郎助。この二人の志には共通して、「社会価値の創出」と「事業化による経済価値の実現」を両立させる発想があったと筧氏は語る。味の素グループがCSVを「ASV」と独自に言い換える背景には、この創業以来の思想がある。
現在、同社の事業は食品事業とバイオ&ファインケミカル事業の二本柱で構成される。特に後者はBtoB領域で存在感を高めており、半導体向け絶縁フィルムでは世界トップクラスのシェアを誇る。2030ロードマップでは、事業利益を年率で10%以上成長させ、食品とバイオ&ファインの事業利益構成を1対1に近づける構想を示した。
こうした戦略転換に合わせて再定義されたのが同社のパーパスだ。従来の「アミノ酸のはたらきで食と健康の課題解決」から、「アミノサイエンスで、人・社会・地球のWell-beingに貢献する」へと拡張された。この造語には、事業領域の広がりだけでなく、長期視点での価値創造を目指す意思が込められている。
人事や広報が横断的に関与
注目すべきは、ASVを実行に落とし込むための「ASVマネジメントサイクル」。理解・納得、共感・共鳴、実行・実現、モニタリング・改善の4段階を回すこの仕組みは、経営企画、人事、グローバルコミュニケーション(広報)が横断的に関与する点が特徴だ。筧氏は「理念を本気で浸透させるには専任組織が必要」として、2024年に人事部内にOur Philosophy共感推進活動の専任組織を設置した経緯を説明した。