パーパスは「作った後」に、何を実行できるか 味の素×第一生命ホールディングス パーパス実現の土台作り

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2025年11月開催の「宣伝会議サミット」(当社主催)では、味の素の筧雅博氏と第一生命ホールディングスの坂本香織氏がそれぞれ、自社のパーパス浸透に関する取り組みを語った。その後、エスエムオー CEOの齊藤三希子氏をモデレーターに迎え、パーパス策定後の現在地や、浸透から実行へ進む過程で直面する課題について語り合った。

タイでASVを体現

齊藤三希子氏(以下、齊藤):味の素さんも第一生命ホールディングスさんも、これまで「食」「保険」という非常に明確な軸を持ちながら事業を展開してこられた一方で、そこからさらに事業領域を広げ、グローバルにも展開していくフェーズに入っています。そうした中で、改めてパーパスを定義し直す意味や価値が、以前にも増して大きくなっているのではないかと感じます。

そこでまずお聞きしたいのが、パーパスを策定したことで、具体的に「これが生まれた」「ここが変わった」と言える商品やサービス、プロジェクトがあるのかという点です。

もし「まだ途中」ということであれば、過去の取り組みの中で、今振り返ると「これは実はパーパスドリブンだった」と言えるものがあれば、ぜひ教えてください。

筧雅博氏(以下、筧):正直に申し上げると、2024年からこのパーパスの取り組みに特に力を入れ始めたばかりなので、そこから「これが新しく生まれました」と言い切れるものは、まだこれからだと思っています。

パーパスは、どこかのタイミングでガラッと切り替わるものではなくて、連続的にじわじわと効いてくるものです。そのため、「パーパスを作ったから急に何かが生まれた」というよりも、これまでやってきたことの意味づけが変わってきたり、これからの判断の軸が変わってきたりする、今はそういうフェーズなのかなと感じています。

ただ、過去を振り返ってみると、「これはまさにパーパスに紐づく取り組みだったな」と思える事例はいくつかあります。その一つが、タイでの農家支援プロジェクトです。

当社はタイで、調味料「味の素」の主原料であるグルタミン酸を何十万トンという規模で生産しています。その発酵はタイの工場で行っているのですが、「味の素」の原料には、タイの農家さんから調達したキャッサバを使用しています。

その中で分かってきたのが、キャッサバ農家さんが、貧困や農業に関する教育機会の不足、農作物の病気といった複合的な課題を抱えているということでした。

私たちがグルタミン酸を作る工程では、アミノ酸を豊富に含んだ液体の副産物が出てきます。これを単なる廃棄物として扱うのではなく肥料として活用してもらう取り組みをしています。また、病害対策の支援もしてきました。

そうすることで、農家さんの生活が安定し、収穫量が上がる。その結果として、安定した原料が味の素に戻ってくる。これは、社会価値の創出と経済価値の創出が循環する、まさにASVの考え方を体現した取り組みだと思っています。

筧氏

筧氏

齊藤:ありがとうございます。「これからだ」とおっしゃりつつも、具体的な事例を聞くと、パーパスが単なる理念ではなく、事業としっかり結びついていることがよく分かりますね。

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