『あの職員室』を手掛けた現役学生クリエイターに取材、企画の源泉は個人的な記憶

人の記憶に眠る、忘れかけていた“あの頃”を呼び覚ます。そんな体験型展示『あの職員室』が話題を呼んでいる。仕掛け人は、CHOCOLATEに所属し、現役の大学4年生でもある体験作家・プランナーの小板橋瑛斗氏だ。
 
高校2年生からプロの制作現場に身を置き、数々の企画を手がけてきた彼は、何を考え、どのようにして人の心を動かす体験を生み出しているのか。企画の裏側にある哲学から、自身のキャリア、そして若い世代へのメッセージまで、その創作の源泉に迫った。

前回の反響を、より多くの人が楽しめる体験へ

――SNSなどを中心に話題になった体験型展示『あの職員室』が立ち上がった経緯について教えてください。

この企画は、昨年サントリーさんと制作させていただいた『あの夏休み自販機』というイベントがきっかけになっています。「小学生の頃、夏休みに友達の家で飲んだ飲み物が一番美味しかった」といった“記憶”を出発点にした企画です。自販機のボタンを押すと、「友達のお母さん」が出てきて飲み物を手渡してくれる、という不思議な体験を設計しました。

これがありがたいことに大変ご好評をいただき、キャンセル待ちで体験いただけなかったお客様が非常に多くいらっしゃいました。

『あの夏休み自販機』は1回に1組しか体験できない形式で、体験いただける人数が限られていました。そこで、より多くの方に楽しんでいただける形で何かできないか、という議論から今回の企画がスタートしました。

大切なのは、物語と個人の記憶が重なる体験

――『あの夏休み自販機』もそうですが、今回の舞台である2010年の職員室も、どこか懐かしい「平成レトロ」の空気感があります。この時代設定には何か意図があるのでしょうか。

「レトロ」なものをつくりたいというよりは、来ていただいた方々それぞれの“個人的な記憶”を呼び起こすような体験を作りたい、という思いが根底にあります。その時代を舞台に設定することで、展示の物語に触れながら、ご自身の記憶を自然と思い出していただけるのではないかと考えました。

――展示の物語と、自分自身の記憶が重なる、と。

そうです。「先生とこんな会話をしたな」とか、そういった一人ひとりの体験者の記憶が呼び覚まされる。私たちは、その空間に入った時にだけ湧き上がってくる記憶を大切にしたいんです。その空間でしか作れない、体験や空間でしか作れないものを通して、記憶を呼び起こす装置を作っている、という意識で企画しています。

誰も体験したことないけど「わかる」記憶を1000個集める

――企画を具体的に進めていく上で、特にこだわったポイントはありますか?

とにかく大量の“個人的な記憶”を入れ込む、という点です。まず、企画のコアメンバー5〜7人をはじめ、社内のコピーライターやプランナーなど、総勢20人ほどの関係者に中学校時代のことを聞きまくりました。

さらに社内メンバーなどを中心にアンケートを募り、50人以上から回答が集まりました。Googleフォームの1つの質問に箇条書きで20個も書いてくれるような方もいて、最終的に1000個近いエピソードが揃いました。

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