エイチ・アイ・エス(HIS)が2025年9月5日から開始した学生旅行プロモーション「HISの青春旅」。その中核をなすWebムービー「#旅するキャンパス」は、東京成徳大学のキャンパスを舞台に、100人の学生たちが世界各地の祭りを疑似体験する企画だ。学生にとって日常の象徴である学校のキャンパスが、リオのカーニバルや台湾のランタン祭りといった非日常の空間へと変貌する。
背景には、単なる旅行需要の喚起に留まらない、HISの課題意識があった。若者にとって、HISはいつしか「敷居の高い」存在になっていたのではないか。その距離を縮め、旅の根源的な価値を伝えるために何が必要だったのか。プロモーションの企画を担当したHISの森井みなみ氏と、企画・監督を務めたグループ会社エイチ・アイ・エス デザイン・アンド・プラスのクリエイター濵屋丈氏に話を聞いた。
もっと「自分ごと化」をさせやすくする
HISでは、コロナ禍が明けた2023年から、学生向けのプロモーションに力を入れてきた。2023年はピアノロックバンドSHE’Sとタイアップし、「大切な仲間と、いま、行こう。」をテーマに、コロナ禍で思うような学生生活を送れなかった学生たちへ、リアルな体験に踏み出す後押しをした。続く2024年は「青くいこうぜ。」をテーマに、ウンパルンパやエミリン、sowa、ばんばんざいといったZ世代に人気のインフルエンサーを起用。彼らが語る学生時代の旅の思い出を通じて、学生旅行の魅力を伝えてきた。
2024年から縦型ムービーに切り替えた。HIS公式TikTokの開設も同年。同アカウントを用いて若者とコミュニケーションを取った。また旅行を検討する前段階や行き先に迷っている学生に向けた「青本」を作成。全国のHIS営業所にて無料配布した
これらの施策は、若者に身近に感じてもらうことを意図していたが、それでも「自分ごと化」にはまだ壁があったと濵屋氏は振り返る。
「インフルエンサーを起用した前回の企画も、彼らに馴染みのある年代の方々を出演させた経緯がありました。ですが、メッセージの着地が『彼らの世界の話』に留まってしまい『作り物感』が先行するリスクがあり、もっとできるはずと考えていました」
そこで若年層をより自分ごと化をさせる表現を模索する中で制作陣が重視したのは「すべてがファクト」であること。濵屋氏は「映る学生も語られる言葉も、そこで溢れ出る感情もすべて本物。やはり学生自身が見る動画だからこそ、学生が学生にリアルを伝える動画がいいのではないか。友人の投稿を見る感覚でTikTokとかも見るだろうし、そういう見せ方をするべきだと考えました」と真意を語った。
HISはちょっと敷居が高いイメージ
「自分ごと化」という課題の根底には、学生市場におけるHISのブランドイメージの変化があった。かつてHISは格安航空券の代名詞であり、学生にとって旅の入り口となる存在だった。しかし、オンライン専門の旅行会社(OTA)が台頭し、誰もがスマートフォンで手軽に情報を集められる時代になると、その立ち位置は変わっていった。
「昔はHISに来るとすごく安いものが見つかる、というイメージがあったところが、今はOTAが市場に普及してきた。そうなると、当社のような会社は、彼らから見ると『大手旅行会社』。親世代が使っているイメージもあり、少し高いんじゃないか、という感覚を持たれている可能性がある」(森井氏)。
この「敷居の高さ」を払拭し、「HISは学生に寄り添っているブランドなんだ」と伝えること。それが、今回のプロモーションにおける大きな目的だった。安さを訴求するだけでは、価格比較サイトの中の一つの選択肢でしかない。そうではなく、HISのファンになってもらうためのコミュニケーションが求められていた。
