なぜ機能・情緒の価値だけでは海外展開につながらないのか
日本政府観光局(JNTO)が発表した、2025年の累計訪日外国人旅行者数(推計値)は約4270万人を記録し、過去最高だった2024年の3687万148人を上回る結果となりました。2025年は、7月に日本で大地震が起こるという噂が台湾や香港で拡散されたり、年末に中国政府による日本への渡航自粛の影響を受けたりと、マイナスな要素も散見されましたが、これほど多くの外国人旅行者が日本を訪れてくれたことは大変喜ばしいことです。
このような状況下で、訪日客は日々、日本でさまざまな商品やサービスを消費しています。各国のSNSで「バズ」が生まれ、特定の商品が飛ぶように売れる光景も日常的になりました。しかし、ここで冷静に振り返るべきは、「母国に帰ってからも消費され続ける商品はどれほどあるか」という点です。インバウンド消費がこれほど好調である一方で、帰国後のリピート(アウトバウンド)が弱い。この「点」で終わってしまう消費に頭を悩ませているマーケティング担当者も多いのではないでしょうか。
この課題の核心は、「機能的価値」の訴求過多にあります。「安い・美味しい・使いやすい」などその商品のスペックや品質ばかりが強調されることで、その情報は「点」として処理されてしまいます。その結果、旅の終わりと共に記憶が途切れ、母国に帰った後の日常では想起されなくなってしまいます。
しかし、今日本で売れているものを海外へ広げたい、あるいは訪日時の消費をフックに海外進出を仕掛けたいと考える企業にとって、この「点の消費」を「線の消費」へと変えることは急務です。そこで本稿では、機能的価値・情緒的価値の先にある、「物語的価値」について解説します。
訪日時の一回限りの消費で終わるものと、帰国後も繰り返し欲されるもの。その間にある「明確な違い」とは何か。インバウンドからアウトバウンドへ繋げるための新たな視点を提示します。
機能・情緒の先にある「物語的価値」
ここで、改めて私たちが向き合っている「価値」の正体を整理してみましょう。マーケティングの世界では、以前から「機能的価値」と「情緒的価値」の二つの軸が語られてきました。
まず「機能的価値」とは、商品が持つ実用性や性能、すなわち顧客の課題をどれだけ合理的・効率的に解決できるかという指標です。バッテリーが長時間持つスマートフォンや、操作が簡単なSaaSツール、耐久性の高い家電製品などがこれにあたります。
一方で「情緒的価値」は、それを使うことで得られる感情や気持ちの変化に焦点を当てたものです。持っているだけで気分が上がるデザインや、ブランドへの共感、使うたびに得られる安心感といった、主観的な満足感に基づく価値を指します。
