テレビをはじめとするマスメディア、さらにデジタルからオフラインの店頭での行動までがデータでつながるようになった時代。メディア投資戦略にイノベーションを起こすような新たな取り組みが始まっています。本連載では企業側、メディア側、広告会社側それぞれの領域で新たな取り組みを始める方たちに取材。今月は月刊『宣伝会議』編集長の谷口優が聞き手となり、博報堂の飯塚隆博氏とThe Trade Desk(以下、TTD)の佐藤大希氏に、マーケティングの現場で起きている課題をテクノロジーがどう解決できるのか。その方向性について議論を行います。
(写真左から)博報堂AaaSビジネス戦略局 局長 飯塚隆博氏、The Trade Desk Japan Client Service Director 佐藤大希氏。
緻密な戦略通りにいかない?広告出稿の“実装の壁”
谷口:価値観が多様化する時代に対応して、マーケターはより精緻なターゲティングを企画するようになっています。しかし、ターゲティングを精緻化しても、実際に広告を配信する「エグゼキューション(実行)」の段階になると、思い描いた戦略通りに再現しきれないというジレンマが生まれています。
マス広告と比較すれば、デジタル広告はターゲティングの精度は高いはず。それなのに、なぜ、思い通りに実行するのが難しいという声が上がってくるのでしょうか。
飯塚:まさに、これは現在のマーケティングにおける大きな課題です。
戦略上では、「誰に・いつ・どこで・何を伝えるか」という設計図を高い解像度で描けるようになりました。しかし、実行フェーズでは個別の媒体やプラットフォームの仕様に戦略を合わせる「部分最適」に陥りやすい。確かに各プラットフォームでの配信において精緻なターゲティングは可能です。しかし、その仕様が各社独自に進化したあまり、複数プラットフォームを横断した「全体最適」のコントロールは、かつてないほどに難しくなっているのです。
佐藤:媒体ごとのサイロ化が進んだ結果、マーケターが「人」を起点に描いたはずのカスタマージャーニーが、実行段階では解像度が下がってしまうケースが少なくありません。
その結果、意図した効果検証ができない点も影響し、全体最適のPDCAサイクルが機能しなくなる。これが多くの企業で起きている課題です。
また現在のメディア環境では、かつてのように「テレビは認知媒体、デジタルは獲得媒体」といった単純な役割分担が成立しにくくなっています。生活者はチャネルを横断して行動しており、各接点がブランド認知と購買意欲の双方に影響を与えているからです。
デジタル広告における複数のプラットフォームのみならず、デジタル以外の複数メディアを横断して、統一的にマーケターが設定したターゲティング通りに広告を配信できることが求められています。
その実現に際して重要なのが、「枠」単体ではなく「人」を軸にメディアを捉える視点です。対象となる人にどう届き、どう行動が変わったのか。その分析を基に、次のアクションを設計していく。この発想の転換が、今マーケターに求められていることです。
