『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。今回は、LIFULL執行役員 CCOの川嵜鋼平さんが『デザイナー採用の教科書 成長する組織に必要な「デザイン人材」の見つけ方・育て方』(株式会社グッドパッチ ReDesignerチーム著)を紹介します。
いまや業種を問わず、多くの企業がデジタル上の顧客接点を持つようになりました。その結果、デザイナーの採用ニーズは確実に高まっています。にもかかわらず採用がうまくいかない企業が多いのは、人材市場の逼迫だけが理由ではありません。採用する側が「デザインとは何を成果とし、何を仕事とするのか」を、言葉として定義しきれていない ——ここが実務のボトルネックになっていると感じます。
本書の提案は、その痛点を外さずに明快です。デザイナーを“見た目を整える人”に閉じず、顧客体験の背後にある欲求や課題を捉え、抽象的なパーパスを操作性やサービス体験、さらには組織文化へ翻訳して、一貫したブランド体験として実装する存在として扱う。そのうえで、要件定義から評価軸、面接設計、オンボーディング、マネジメントまでを「つながった設計」として提示してくれます。採用を点で捉えがちな現場にとって、この一気通貫が効いてきます。読んでいて何度も頷きました。
『デザイナー採用の教科書 成長する組織に必要な「デザイン人材」の見つけ方・育て方』(株式会社グッドパッチ ReDesignerチーム著)定価2,310円
読み進めるほど、採用は「人を選ぶ」以前に「未来を選ぶ」意思決定なのだと突きつけられます。ものづくり日本の文脈で言えば、たとえばリクルートは創業者・江副浩正という経営思想と、亀倉雄策が手がけたロゴに象徴されるデザインの力が重なり合い、企業の輪郭が強くなっていった。無印良品もまた、堤清二の経営思想と、田中一光が長年アートディレクションで体現した“感じ良いくらし”が結びつき、生活者の価値観にまで届くブランドになっていった。「経営×デザイン」が噛み合った瞬間にブランドが強くなる ——その事実を、採用という入口から再現しようとしているのが本書だと思います。
そしていまのスタートアップでは、不確実性そのものが競争環境です。OpenAIの求人にも「Enjoy tackling ambiguous problems and shaping them into a clear vision(曖昧な問題に取り組み、それを明確なビジョンに形作ることを楽しめる)」という趣旨が書かれている。言い換えれば、仮説と行動で道を切り開く力が、職能を超えて価値になりつつあるということです。だからこそデザイナー採用は、未来の組織能力を先に育てる“経営の仕事”になっていくのだと思います。
私自身、2017年にLIFULL社内にインハウスクリエイティブ組織を立ち上げ、採用・育成・評価の“言語”を整えることに長く向き合ってきました。本書は、その試行錯誤を整然と翻訳してくれると同時に、デザイナーのスキルはプロダクトだけでなく、事業や組織のあらゆる局面でも活かせるのだと静かに背中を押してくれました。人事だけでなく、事業責任者、マーケティング、経営者——デザインを「採用コスト」ではなく「無形資産」として持ちたい人に、まず手元に置いてほしい一冊です。
採用は、未来の輪郭を決める最初のデザインである。読み終えたあと、その感覚だけが静かに残りました。

『デザイナー採用の教科書 成長する組織に必要な「デザイン人材」の見つけ方・育て方』
株式会社グッドパッチ ReDesignerチーム著
定価2,310円
デザイナーの「採用」から「育成」「マネジメント」までを成功に導く実践ガイド。日本最大級のデザイナーキャリア支援サービス「ReDesigner」の知見を体系化し公開。失敗しない採用フローを詳細解説するほか、採用市場の最新動向の解説、デザイナー採用・育成の成功事例も。人事担当者だけでなく、デザインの力を事業や経営に生かしたい経営者の方にも広く役立つ一冊。
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