「よし、AIをやるぞ」と旗を振ったのに、社内は動かず反発も出る——。AI推進担当者が最初に直面するのは、技術理解の誤解、評価制度のねじれ、そしてAIへの不安や無関心といった感情の壁です。ハヤカワ五味氏が、メルカリでの推進経験から見えてきた、担当者を孤立させる「3つの壁」の正体と、突破の考え方を整理する。
AI導入を阻む「3つの壁」の正体─なぜ担当者は孤立するのか
前回は「AIはインフラになるから、食わず嫌いしてる場合じゃない」というお話をしました。今回は、実際に「よし、AIやるぞ!」と旗を振ってみたものの、なぜかうまくいかない……というAI推進担当者の皆様に向けて、その原因と対策をお話しします。
正直に言います。企業のAI導入、めちゃくちゃ大変です。私もメルカリでAI推進を担当していた最初の半年は、本当に胃が痛くなるような毎日でした。
「なんでこんなに便利なものを、みんな使ってくれないんだろう?」
「なんでこんなに反発されるんだろう?」
そう悩んでいる担当者の方、あなただけではありません。
私が1年間の奮闘を通じて見えてきたのは、AI導入の前には必ず立ちはだかる「3つの壁」があるということです。そして、この壁の正体を知らないまま突き進むと、担当者は孤立し、プロジェクトは頓挫します。
技術理解の壁「AIは嘘をつくから使えない」
最初の壁は、技術に対する誤解です。「ChatGPTを使ってみたけど、嘘をつかれた。だから仕事では使えない」。これは、AI導入初期に必ず聞く言葉ランキング1位かもしれません。
確かに、LLM(大規模言語モデル)はハルシネーション(もっともらしい嘘)を起こします。でも、それは「使い方が悪い」か「使う場所が間違っている」かのどちらかであることが多いんです。
例えば、電卓に「いい感じの文章を書いて」と頼んでも無理ですよね? 逆に、文章を書くツールに「複雑な計算をして」と頼むのも間違っています。生成AIも同じで、得意・不得意があります。電卓に文章を書かせようとして「こいつは使えない」と怒るのは、ツールの特性を理解していないだけなんですよ。
ただ、この状況は技術の進歩で変わりつつあります。例えば、2025年2月に登場したディープリサーチ機能などは、参照元を明示してくれるため信頼性が格段に上がりました。プロンプトに関わらず回答の品質が上がり、「使わない理由」は徐々になくなってきています。
それでも残るアレルギーに対しては、「AIは何でもできる魔法の杖」という期待値を調整し、「AIは間違えることもある新入社員」くらいの感覚で付き合う作法を組織内にインストールする必要があります。
「嘘をつくからダメ」ではなく、「嘘をつく可能性がある前提で、どう業務に組み込むか」。この発想の転換ができないと、いつまで経ってもAIは使えないままなんですよね。
組織の壁「やっても評価されない」
技術的な壁を越えても、次に待っているのが組織の壁です。「AIを使って効率化しても、自分のOKR(目標)には入っていない」や「楽をして成果を出しても、サボっていると思われるだけ」といった声が挙がります。