「シェフは人間です」「このコピーは人間が書きました」がプレミアムになる世界

※本稿で取り上げたOpenClaw、Moltbookに関する情報は2026年2月初旬時点のものです。プロジェクトの状況は急速に変化しており、最新の情報は公式リポジトリなどをご確認ください。

前回のコラムでは、オープンソースのAIアシスタント「OpenClaw」が注目を集めている現象について、古典SF小説『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』になぞらえて“経営者は電気社員の夢を見るか”という投げかけをしました。

今回はその続編で、「OpenClaw」にまつわる問題点や「人間」が介在する意義などについて考察していきたいと思います。

夢は悪夢と紙一重――セキュリティという現実

OpenClawの急成長と並行して、セキュリティ研究者たちからの警告も増えていきました。

セキュリティ研究者のNathan Hamiel氏は、「基本的にAutoGPTのより危険なバージョンである」と評しています。「より危険」というのは、OpenClawがユーザーのパスワード、データベース、システム全体へのアクセス権を持つからです。

サイバーセキュリティ企業のPalo Alto Networksは、OpenClawが「致命的な三重苦(lethal trifecta)」を抱えていると警告しました。

「プライベートデータへのアクセス」「信頼できないコンテンツへの露出」「自律的な行動能力」の3つが組み合わさることで、リスクは掛け算的に増大します。

Google Cloudのセキュリティエンジニアは、より直接的に「インストールするな」と呼びかけました。AI研究者のGary Marcus氏も「セキュリティやプライバシーを気にするなら使うな」と断言しています。

警告は、単なる杞憂ではありませんでした。

セキュリティ研究者たちは、数百のOpenClaw(当時の名称はMoltbot)インスタンスがインターネット上に公開状態で放置されているのを発見しました。設定ミスにより、管理画面が外部からアクセス可能になっていたのです。

露出したダッシュボードからは、TelegramやSlack、Discordの会話履歴、各種サービスのAPIキー、認証情報(パスワードを含む)などが閲覧可能でした。

さらに深刻な脆弱性も発見されました。「ワンクリックRCE(リモートコード実行)」と呼ばれる攻撃手法で、悪意のあるURLをクリックするだけで、攻撃者がユーザーのシステムを完全に乗っ取れるというものです。

セキュリティ分析ツールのZeroLeaksの検証によれば、この攻撃の成功率は91%。サンドボックスからの完全脱出も可能で、bashコマンドを数ミリ秒で実行できる状態だったといいます。

度重なる名称変更の混乱がもたらしたリスク

名称が何度も変わるという異常事態は、セキュリティ面でも混乱を招きました。前回も述べたように、OpenClawはこれまでClawdbot、Moltbot、OpenClawと名称を変えています。

どのドメインが本物なのか、どのGitHubアカウントが公式なのか、ユーザーには判断がつきにくくなりました。この隙を突いて、詐欺サイトが出現。偽のダウンロードページや、マルウェアを仕込んだ「改良版」を配布するサイトが確認されています。

GitHubアカウントへの乗っ取り未遂も報告されました。古いドメインや古いアカウント名を狙った攻撃です。名前を変えるたびに、放棄された旧名称が攻撃者にとっての「入り口」になるリスクがあります。

興味深いのは、開発者のSteinberger氏自身がこれらのリスクを率直に認めていることです。

「無料のオープンソースの趣味プロジェクトです。安全に使うには慎重な設定が必要です。技術者以外にはまだ推奨しません」

公式ドキュメントにも、こう明記されています。

「シェルアクセス権限を持つAIエージェントを自分のマシンで実行することは“spicy(きわどい)”です。完全に安全な設定は存在しません」

「spicy」という表現が、ある種の正直さを感じさせます。危険だとわかっていて、それでも作り続けている。使う側も、そのリスクを理解した上で使うべきだ、と。

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生成AI時代のテクニカルディレクション
岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

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