伝統は変われるのか──中東の老舗香水ブランドが5年かけて示したPRの力

生成AIの普及やデジタル化の加速によって、ブランドは短期的な話題づくりや瞬間的な拡散を求められがちです。一方で、海外の優れたPR事例を見ていくと、時間をかけてブランドの語り方そのものを変えていく取り組みが、改めて注目されていることに気づかされます。今回紹介するのは、中東を代表する老舗香水ブランドが、5年という長い時間軸で実現したブランド変革の事例です。

74年の歴史を持つブランドが直面した転換点

中東を拠点とする老舗フレグランスハウス Ajmal Perfumes(以下、Ajmal社) は、1940年代に創業し、職人技とウード(沈香)の専門性によって高い評価を築いてきました。しかし、香水市場の急速な成熟と競争激化の中で、伝統だけではブランドの将来を語れなくなっています。第三世代のCEO就任を契機に、同社は「家族経営の伝統ブランド」から「現代的で国際性のある香水ブランド」への転換を本格的に模索し始めました。

この変革を支えたのが、PRを単発の施策ではなく、長期的なブランド戦略として位置づけるアプローチでした。パートナーとなったのは、ドバイを拠点に活動するPR・マーケティングエージェンシー Yardstick Marketing(以下、Yardstick社) です。

課題は「認知」ではなく「語り方」にあった

Ajmal社が直面していた課題は、単に知名度を高めることではありませんでした。中東市場ではすでに確固たる存在感を持っていた一方で、若い世代や国際市場に対しては、「伝統的だが古い」という印象を持たれかねない状況にありました。求められたのは、歴史を否定することなく、その価値を現代の文脈で再定義することでした。

そのためYardstick社は、キャンペーン単位の露出拡大ではなく、ブランドの物語を段階的に更新していくPR設計をしました。店舗オープンや国際市場への進出支援、メディアとの関係構築、経営層の発信強化など、複数の施策が一本のストーリーとして編み直しました。

写真

「すべてのしずくに伝統が宿る(筆者和訳)」(Ajmal社提供)

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世界の潮流を事例から解説!PRのネクストトレンド
岩澤康一(Key Message International代表取締役)

国内/外資のファームでデジタル、グローバルな広報・PR経験を積んだコミュニケーションの専門家。TBSワシントン支局に勤務後、在シリア日本大使館広報文化担当官、日本国際問題研究所広報部長などを歴任。米アメリカン大学より国際平和紛争解決法修士号、早稲田大学よりジャーナリズム修士号取得。ハーバード・ビジネス・スクールでAIを学ぶ。日本広報学会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教員。弘前大学客員教員。著書に「世界標準の説明力 頭のいい説明には『型』がある」(SBクリエイティブ)。

岩澤康一(Key Message International代表取締役)

国内/外資のファームでデジタル、グローバルな広報・PR経験を積んだコミュニケーションの専門家。TBSワシントン支局に勤務後、在シリア日本大使館広報文化担当官、日本国際問題研究所広報部長などを歴任。米アメリカン大学より国際平和紛争解決法修士号、早稲田大学よりジャーナリズム修士号取得。ハーバード・ビジネス・スクールでAIを学ぶ。日本広報学会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教員。弘前大学客員教員。著書に「世界標準の説明力 頭のいい説明には『型』がある」(SBクリエイティブ)。

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