万博を通じて紡ぎ続けた「道具」のような言葉たち――大阪・関西万博の広告を振り返る

2025年10月14日、大阪・関西万博の閉幕の翌日。全国紙に「閉幕御礼広告」が掲載され大きな話題を呼んだ。万博の開幕500日前広告を皮切りとして一連の広告を手がけたのは、ライトパブリシティの山根哲也さんら。意識していたのは、人々の気持ちを捉え、さらに使われる、「道具」のような言葉だと話す(本記事は『ブレーン』2026年3月号からの転載記事です)。

「使ったり遊んだりできるような言葉」

2025年4月、賛否両論の渦の中で開幕し、最終的には多くの人々を魅了した大阪・関西万博。その機運醸成の一環として、2025年日本国際博覧会協会は、万博開幕の500日前のタイミングを機に集中的に広告出稿を開始。特に閉幕広告に至るまで、全5回ほどの広告展開を行った。

「500日前広告」を皮切りに一連の広告を手がけたのは、細川直哉さんがリードするドリルと、山根哲也さんをはじめとするライトパブリシティの合同チーム。当初のオリエンテーションはシンプルだった。「前売りチケットの販売開始に合わせて、とにかく機運を盛り上げたい、というお題でした。ターゲットは1970年の万博体験者であるシニア層や子育て世代、外国人観光客など細かく決まっていましたね」(山根さん)。

開幕1年前広告では、「ミャクミャク」のように万博のロゴマークをさまざまな人に被せて撮影し、万博への“参加”を促した(2024年3月13日リリース)。提供:2025年日本国際博覧会協会

開幕1年前広告では、「ミャクミャク」のように万博のロゴマークをさまざまな人に被せて撮影し、万博への“参加”を促した(2024年3月13日リリース)。提供:2025年日本国際博覧会協会

とはいえ当時、世間の万博に対する風当たりは強かった。コロナ禍で開催された東京2020五輪後の反動もあり、「なぜ今、万博をやるのか」と開催の是非を問う声も少なくない。逆風の中で、山根さんは自身の出自が思考の前提にあったと語る。

「僕、京都出身なんです。(万博会場となる)関西の人間として、あの状況で真正面から綺麗なことを言っても絶対に見透かされるし、大上段に構えた言葉はスベるだろうなと思いました。むしろもっと皆に近くて、使ったり遊んだりできるような、『道具』のような言葉がしっくりくる気がしました」。

そこから生まれたのが、500日前広告のキャッチコピー「くるぞ、万博。」だ。シンプルで記号的なこの言葉は、「万博」という言葉が大阪・関西万博のロゴに入っていなかった(EXPO 2025と記載されているのみ)ため、それを補完し、万博をより身近に感じさせる役割も担っていた。

万博の開幕500日前広告「くるぞ、万博。」(2023年10月6日リリース)。全4種を制作。提供:2025年日本国際博覧会協会

万博の開幕500日前広告「くるぞ、万博。」(2023年10月6日リリース)。全4種を制作。提供:2025年日本国際博覧会協会

しかし発表直後の世間の反応は、厳しいものだった。

「正直ネット上では、このコピーをもじった批判的な投稿もありました。ただ同時に、そもそもまだ表面的に批判をしているだけで、万博自体への関心がないのでは、という課題もあって。オリンピックでもワールドカップでも、盛り上がるのは意外と直前か開始後です。それまでにいかに認知をすり込めるかが勝負――そういう意味で言えば、批判的な意見は広がりやすいので、認知向上には役立つのでは――そのくらいのテンションで冷静に見ている部分もありました」(山根さん)。

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