バイオハザードの高画質化デモが物議、NVDIAのAI画像処理技術「DLSS」の歴史と正体

3月16日、NVIDIA社が主催する技術カンファレンスGTC 2026(※1)で、DLSS 5が発表されました。DLSSは同社のGPUに搭載されたAI画像処理技術で、ゲームの映像をリアルタイムで高画質化する仕組みです。2019年から世代を重ねてきたこの技術の最新版を、ジェンスン・ファンCEOは「GPT moment for graphics」と呼んでいます(※2)。

デモ映像を見て、まず驚きました。『Resident Evil Requiem(日本タイトル: バイオハザード レクイエム)』のシーンで、キャラクターの肌に光が差し込む表現、髪の一本一本に乗る異方性ハイライト、金属やガラスの素材応答。従来のラスタライズやレイトレーシングとは明らかに次元の異なるライティングが、リアルタイムで動いている。技術者として、これは素直にすごいと思いました。

しかし、同じデモの別のカットで空気が変わります。登場人物であるGrace Ashcroftの顔が、DLSS 5のオン/オフで別人のように変わっていたのです。原作では意図的にデザインされた「疲れた表情」が、ふっくらとした唇、整った鼻筋、消えた目の下のクマ、追加されたメイクアップに置き換えられている。ゲーマーやクリエイターの反応は劇的で、「AI Slop」「Yassification」というラベルがSNSで拡散しました(※3)。

さらに問題だったのは、バイオハザードシリーズの開発元であるカプコン社の開発チームがこのデモに事前通知を受けていなかったことです。「We found out at the same time as the public(我々は一般の方々と同時に知った)」という開発者の証言が報じられています(※4)。Ubisoft社の開発者も同様だったとのこと。NVIDIAのPR部門はカプコンの「承認」を主張していますが、経営層の承認と現場の開発チームへの通知は別の話でしょう。

ファンCEOの対応も興味深い推移を辿りました。批判が噴出した直後は「they’re completely wrong(彼らは完全に間違っている)」と一蹴。しかし批判が広がると、外部メディアのインタビューでは「I don’t love AI slop myself(私自身、AI slopは好きではない)」「I’m empathetic towards what they’re thinking(ゲーマーが何を考えているかは理解できる)」と、かなり態度を軟化させています(※5)。

SNSでは「DLSS 5 Off / DLSS 5 On」フォーマットのミーム画像が洪水のように溢れました。PS1版FF7のクラウドやマインクラフトのスティーブにハイパーリアルな顔を合成するような感じのパロディです。初期のミームはこうしたコラージュ的なものもあったのですが、最近では画面全体を画像生成AIで作り直したようなものが増えており、もしかして本当にDLSS 5の出力なのではないか、と判断に困るレベルのものが出回っています(※6)。

そもそもDLSS 5はまだ発表段階で、秋のリリースまでエンドユーザーが試せる状態にはないため、こうしたユーザーによるミームはまずフェイクなのですが、発表段階の技術に対してこれだけの反応が起きたこと自体、この話題のセンシティブさを物語っていると言えます。

この発表には私自身、いくつか思うところがありました。ひとつは純粋な技術的驚き。そして、独自のアップスケーラーを開発してきた立場として「やられた」という感覚。ただ、それ以上に気になったのは、この技術が「何をやっているのか」という、中身に対する興味でした。

※1: GTC(GPU Technology Conference)はNVIDIA社が毎年開催する技術カンファレンス。GPU、AI、ロボティクスなどの新技術発表の場。

※2: NVIDIA社公式プレスリリース(2026/3/16)。

※3: 「AI Slop」は生成AIによる粗悪な出力物を指すスラング。「Yassification」はAIビューティフィルターによる極端な加工を指すスラング。PC Gamer、Kotakuなどが報道。

※4: NotebookCheck報道。カプコンのPR部門は「承認」をNVIDIAに与えたとされるが、開発チームへの情報共有はなかった模様。

※5: 初期発言の原文は「they’re completely wrong」(Tom’s Hardware報道)。態度軟化はAI・テクノロジー系ポッドキャスターLex Fridman氏の番組での発言。原文は「I don’t love AI slop myself」「I’m empathetic towards what they’re thinking」(PC Gamer / Windows Central報道)。

※6: Know Your Memeにエントリが立っている。ミームのムードは称賛よりも揶揄が圧倒的に支配的。

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生成AI時代のテクニカルディレクション
岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

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