5月26日に開かれた「コーポレートブランディングカンファレンス」(宣伝会議主催)に登壇したTBS・JNN NEWS DIG ビジネスプロデューサーの石橋正人氏が、JNN28局で展開するニュースメディア「TBS NEWS DIG Powered by JNN」を活用したブランドコミュニケーションの考え方と実践事例を解説した。
ブランド設計と社会の間にある「3つの壁」
石橋氏は講演の冒頭、企業がどれだけ優れたブランド設計を行っても、それがステークホルダーに届かない背景には「言葉の壁」「一貫性の壁」「ノイズの壁」があると語った。
ブランド設計と社会の間にある「3つの壁」
「言葉の壁」とは、企業の思いが強いほど、発信内容が専門的、抽象的になり、生活者が自分ごととして受け止めにくくなる現象だ。「一貫性の壁」は、個々の取り組みが点在し、ストーリーとしてつながらないため、企業活動の全体像が伝わらない状態を指す。そして「ノイズの壁」は、SNSや広告、AIが生成する回答など、情報接触環境が複雑化する中で、真摯なメッセージほど埋もれやすくなっている背景がある。
さらに、石橋氏は生活者が広告の情報を読み飛ばしやすくなっている現状にも触れた。読者が求めているのは、プレスリリースに多いきれいに整えられたものよりも、現場のリアリティや裏付けといった信頼であるという。
生活者に読み飛ばされない企業発信を実現するためには、企業の主観的な「伝えたいこと」を、社会が受け取りやすい客観的な文脈に置き換える必要がある。石橋氏は、企業の発信を生活者が納得できる形に翻訳する手段として、「ニュース文脈」の活用を挙げた。
ただし、オウンドメディアには自社発信として受け止められやすい側面がある。石橋氏は企業が発信する情報をどう信頼される形で届けるか、TBS NEWS DIG Powered by JNN(以下、TBS NEWS DIG)での実装プロセスを、次のように説明した。
月間3億PV超、JNN28局で広がるニュースメディア
TBS NEWS DIGは、TBSテレビをキー局とするJNN28局を統合したニュースメディアである。統合前のTBS NEWS単体では月間約4500万PVだったが、28局によるプラットフォーム化によって規模を拡大した。2026年4月には過去最高となる3.23億PVを更新した。
記事はTBS NEWS DIG本体だけでなく、主要プラットフォームにも配信されており、総コンテンツビューは月間8.4億に達する。読者層は20〜40歳代が中心で、男女比はほぼ半々。日本全国からアクセスがある。石橋氏は、こうしたリーチに加え、企業の発信をそのまま掲載するのではなく、メディアの視点と品質管理を備えた「信頼される場」であることが、ブランドコミュニケーションにおける価値だと説明した。
TBS・JNN NEWS DIG ビジネスプロデューサー 石橋正人 氏
テレビ局の制作力で「主観」を「社会文脈」へ
石橋氏は、テレビ局の制作力を「取材力」「構成力」「品質管理」の3つに整理した。
テレビ局の制作力が信頼を担保する3要素
取材力とは、企業の発表内容をそのまま掲載するのではなく、背景にある思いや現場の熱量、社会的意義を掘り起こす力である。単なるインタビューではなく、「なぜ今それをやるのか」を問い、企業の原体験や葛藤を掘り下げることで、社会が受け入れやすい客観的なストーリーの土台を築いていく。
構成力は、情報を生活者が自分ごと化できる社会的文脈へと組み直す技術だ。石橋氏は、納得感を生む構造として「社会のいま(課題)」「企業の挑戦(壁を越えるプロセス)」「未来への兆し(変化の提示)」の3層を示した。まず、その取り組みが必要とされる背景や課題を提示する。次に、企業が壁を越えてきたプロセスを描く。最後に、その活動が今後どのような変化につながるのかを示す。
品質管理では、放送倫理に基づく考査基準や制作ガイドラインを重視する。ステルスマーケティング規制が厳格化する中、TBS NEWS DIGではすべてのタイアップ案件に「PR」を明記。広告であることを示したうえで、メディアの視点を介して社会に届く文脈として発信する姿勢を徹底している。
ローカルから全国へ広がるタイアップ広告
TBS NEWS DIGでは2024年から、記事広告・タイアップ広告の取り扱いを始めている。企業の言葉を生活者が納得できる文脈へ置き換え、信頼されるニュースメディアを通じて、(生活者との)継続的な接点を構築するサービスである。
メニューは、記事タイアップ広告、記事タイアップ広告+動画、オウンドコンテンツ転載の3種類。商品・サービス紹介、企業ブランディング、トップインタビュー、採用ブランディング、イベント集客、自治体・団体紹介など、用途は幅広い。2024年にセールスを開始し、2025年度は50件超に拡大した。現在は制作予定分なども含めて90件超に広がっている。
特徴的なのは、実績の3分の2以上をTBS以外のJNN各局が担っている点だ。地域企業や自治体、行政の取り組みを、各地の放送局が取材し、全国へ届ける「ローカルから全国へ」の発信モデルが形になりつつある。
実践事例として、福岡のキャンピングカービルダー・ナッツRVでは、全国での認知拡大と採用ブランディングを目的に、社長への長時間取材を実施。前後編の記事で、事業の成長軌跡や経営哲学、人材や組織づくりに対する考え方を伝えた。
愛知のセトクラフトの事例では、お墓用の陶器製供花「カレンヌ」を取り上げ、開発背景や利用シーンを通じて、従来なかった商品の価値を伝えた。掲載後はECサイトへの送客にもつながる反響があった。このように、掲載された記事がアーカイブとして残り、自社サイトやSNSから誘導できる「資産型ブランド紹介コンテンツ」として活用できる点も、同サービスのメリットのひとつだ。
ブランド価値を「社会の資産」へ
石橋氏によると、通常のタイアップ記事からスポンサー企業サイトへの遷移率は約1.5%だが、TBS NEWS DIGのタイアップでは平均5.5%、高い事例では50%に達するケースもあったという。記事を読んだうえで興味関心が高まり、次のアクションにつながる傾向が見られると説明した。
最後に石橋氏は、ブランド価値を社会に届けるプロセスを「発見」「翻訳」「制作」「配信」「還元」の5ステップで整理した。社会的意味を掘り起こし、生活者文脈に翻訳し、テレビ局の制作力で構築し、信頼される場へ届け、最後に記事や発信内容を企業の資産として蓄積する流れである。
ブランド価値を社会に届ける5ステップ
「設計されたブランドを、テレビ局の立場からお手伝いし、生活者の心に届けて、社会に根付くストーリーへと育んでいければ」と石橋氏は締めくくった。

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