生成AIの普及に伴いデジタル上の情報が急速に増加する現代において、企業が発信するメッセージはユーザーに届きにくくなっている。そうした課題を解決する強力な手段として、いま改めて注目を集めているのが「マンガやアニメなどのIP(知的財産)を活用したマーケティング」だ。
2009年からマンガを活用したマーケティング支援を展開し、現在はマンガやアニメIPを活用したプロモーションで豊富な実績を持つシンフィールド。代表取締役の谷口晋也氏に、IP活用が効果を発揮する理由や同社ならではの強み、成果につなげるIP活用設計について話を聞いた。
シンフィールド 代表取締役 谷口晋也氏
情報過多時代における広告の限界と「IP活用」という解
生成AIの登場により、誰もが容易に大量のクリエイティブを作成・発信できるようになった結果、ユーザーの反応率は低下し、顧客獲得コストは高くなっている。このような状況下で強い存在感を発揮するのが、マンガやアニメなどの「IP」が持つ力だ。
「IPには、すでに熱量の高いファンコミュニティが存在し、長年積み重ねられてきた『信頼』や『愛着』、『共感』があります。企業がゼロから認知を獲得し、信頼関係を構築するには時間とコストがかかりますが、作品が築いてきた文脈や世界観を活用させていただくことで、ユーザーとのコミュニケーションのハードルを大幅に下げることが可能になります」と谷口氏は話す。
また谷口氏は、IP活用の大きな強みとして、広告をファンが自ら参加したくなる「体験」に変えられる点を挙げる。
「通常の広告は企業から生活者へ情報を届ける一方向のコミュニケーションになりがちですが、好きな作品との取り組みであれば、ファンにとって単なる広告ではなく『参加したい』『見に行きたい』『手に入れたい』と感じるコンテンツになります。限定商品の購入、店舗やイベントへの訪問、キャンペーン応募、写真撮影&SNS投稿など、IPへの愛着を具体的な行動へつなげることができる。企業が伝えたい情報を、ファンが楽しみながら参加できる体験へ変えられることこそが、IPの本当の力だと思います」(谷口氏)
マーケティング視点と作品理解を掛け合わせた「IP活用設計」
シンフィールドは2009年から企業の訴求内容をマンガにする「マンガマーケティング」事業をスタート。1500人以上のマンガ家、マンガを描ける700人以上のインフルエンサーによるネットワークを築き、オリジナルマンガを制作して企業のマーケティングを支援する事業を中心に拡大してきた。
転機となったのはコロナ禍だ。世界的なステイホームの潮流のなかで動画配信サービスなどを通じてアニメやマンガが国内外で広く普及。同社も以前から取り組んでいたIPを活用したマーケティング支援を2022年〜2023年頃から本格的に拡大していった。
IP活用で重要なのは、人気作品を起用すること自体ではない。企業や商品と作品との親和性を見極め、ファンが納得できる文脈をつくりながら、企業の成果とIPの価値向上を両立する企画を設計することだ。また、企業がIPを活用するうえでは、作家や出版社、製作委員会、プロダクションなど、IPの権利を持つ、または管理する関係者(以下、IPホルダー)の考えを理解することも欠かせない。
「前提として、IPホルダーは広告利用による収益を第一に考えているわけではありません。最も大切にしているのは『作品価値の長期的向上』であり、『ファンと末永く良い関係性を保つこと』です。企業によるIP活用が作品の価値を高めることにつながるからこそ、広告での利用を認めてもらえるのです」(谷口氏)
シンフィールドの強みは、作品への深い理解に加え、マーケティングの視点からIPの活用方法を考えられることにある。広告主や広告代理店が定めた目的やターゲットを踏まえ、どのIPが適しているのか、企業や商品と作品をどのような文脈で結びつけるのか、ファンにどのような体験を提供するのかを、IP領域の専門的な視点から設計している。
タイアップ案件の企画・制作にあたっては、対象作品の単行本を社内で「全巻読破」し、キャラクターのセリフのトーン&マナーや世界観、NG事項を把握する。そのうえで、企業が伝えたい内容を、作品やファンにとって意味のある表現へと落とし込んでいる。また、各IPの権利管理者へクリエイティブを提出する前に、社内の専門担当者が作品の世界観や過去の監修知見に照らして事前確認を行う。IPの選定や企画提案から、権利調整、クリエイティブ制作、監修進行まで対応することで、広告主や広告代理店のマーケティング施策をIP領域から支援している。
IP活用のハードルを下げる「社会をよくする企業応援プロジェクト」
同社が、これまでIP活用を難しいと感じていた企業に向けて2023年に発足させたのが、「社会をよくする企業応援プロジェクト」だ。
本プロジェクトは、各IPの権利管理者と連携し、『島耕作』シリーズや『ベルサイユのばら』『賭博黙示録カイジ』といった有名IPを活用して、世の中をよりよくする活動や社会課題の解決を進める企業を後押しするものである。これまでIP活用に踏み出せなかった企業にも参加してもらえるよう、通常より利用しやすい特別価格を設定している。
同社が各IPの権利管理者と調整し、広告利用に適したマンガのコマやイラストなど、各作品100点以上の素材を用意。活用できる素材や仕様、活用方法をあらかじめ提示することで、企業が具体的に検討しやすい仕組みにしている。
大手化粧品メーカー×『進撃の巨人』でエンゲージメントが大幅に向上
IP活用の具体的な成功例として、同社が手掛けた大手化粧品メーカーのメンズコスメにおける『進撃の巨人』活用キャンペーンがある。
20代〜40代男性をターゲットに実施された本施策では、認知拡大から特設サイトへの誘導、会員登録・商品購入までを設計。結果として、通常のキャンペーンを大きく上回る反応を獲得し、インプレッションの拡大に加え、リポストやいいね、保存といったユーザーの積極的な行動にもつながった。
タイアップ成功の秘訣の一つ目が、作品の時間軸とストーリー設計だ。LPに掲載した全4話のマンガコンテンツをSNSでも発信。1〜2話ではメインキャラクターを軸に展開し、3話目にはファンの反応を意識してサブキャラクターを起用した。作品の象徴的なシーンやセリフ、設定を取り入れ、作品への深い理解と敬意が伝わり、コアファンに「この企画は自分たちのためにつくられている」と感じてもらえるクリエイティブに仕上げた。
二つ目の成功要因が、限定ノベルティによる購買・拡散動機の形成である。作品の思い出や好きな場面をSNSへ投稿できるUGC企画を展開したことで、企業からの情報発信だけでなくファン同士の会話が生まれ、自然な情報拡散につながった。さらに、ここでしか手に入らないオリジナルタンブラーをインセンティブとしたプレゼント施策を展開。ファンの「欲しい」「所有したい」という感情を刺激し、SNS上での自発的な話題化(UGCの創出)と購買アクションを後押しした。
「作品を熟知しているからこそ、『このシーンを選ぶのは作品をよく理解しているな』とファンに感じてもらえるクリエイティブが作れます。コアファンの熱量がSNSでの拡散を生み、ライト層にも情報が広がる。そこから特設サイトへの訪問や、会員登録、購買といった次の行動も促すことができます」(谷口氏)
IPを起用して終わらせない、成果につなげる活用設計と今後の展望
IP活用を成功させるうえで重要なのは、知名度だけでIPを選ばないことと、IPの起用自体を企画のゴールにしないことだ。
「自社の商品やターゲットと作品に親和性があるか、ファンに納得してもらえる文脈をつくれるかを見極めることが重要です。そのうえで、誰に何を届け、どのような行動につなげたいのかを明確にし、目的に応じて企画や発信内容を設計します。企業の成果につながり、IPの価値を高め、ファンにも喜んでもらえる。その三者にとって価値のある取り組みにすることが、企業によるIP活用には必要です」(谷口氏)
シンフィールドは今後、広告主への直接支援に加え、広告代理店などが考える戦略や企画をIP領域で実現する専門パートナーとして、タイアップやコラボレーション、キャンペーン利用の支援をさらに強化していく考えだ。
そのうえで、谷口氏は「IPの商品化支援やイベント展開、IPを活用した自治体との連携、さらに日本のIPを海外へ届ける支援へと事業領域を広げていきます。企業とIPホルダーの双方から、IP活用について最初に相談される存在を目指しています」と今後の展望を語った。
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