アンバサダーとして参加してきました
東京では2回目となるWorld Marketing Summit(ワールド・マーケティング・サミット)2015が10月13、14日に開催された。一言でいえば、とても充実した内容であった。筆者は、同じく本欄でコラム連載している徳力基彦氏と共に同イベントのアンバサダーに任命されており、思い入れが強いが、なるべく客観的にレポートしたい。
小泉進次郎氏など豪華なキーノートスピーカー陣
豪華なスピーカーを擁する本イベントは、日本マーケティング協会後藤卓也会長の挨拶により幕を開けた。後藤氏は花王での経営経験を引き合いに「マーケティングは経営そのもの」と定義し、「現在はモノや情報があふれており消費者は自分が何を欲しいのかわからなくなっている」という前提で「IT、ビッグデータを活用したマーケティングが不可欠」と語った。
続いては麻生太郎副総理がビデオで祝辞を述べた後に小泉進次郎衆議院議員が登壇した。小泉氏のスピーチはイベントの至るところで絶賛されていたが、内容として自身の政治活動の中でマーケティングに触れた実感を自分の言葉でわかりやすく語っていたように感じた。
マーケティングを意識したのは、自身が地方創生を担当していた頃に岩手県紫波町で「ピンホール・マーケティング」を経験した時だという。紫波町としての特徴を出すために世界有数のバレーボール専用施設をつくったことで、バレーボールの聖地として世界に誇る施設と評価され地域活性に役立っている、まさに「針の穴を通す(=ピンホール)」マーケティングの力を実感した。また同県の二戸町では、「南部美人」という日本酒が日本でも広がっている「ハラル認定」ではなく、ユダヤ教の「コーシャ認定」を取ることによって差別化し、世界に広く普及するきっかけとなった話を披露した。その上でマーケティングには「産業と地方の問題解決をする力があり」「イノベーションを誘発して成長」することを実感したという。
また、本番前の控室ではフィリップ・コトラー教授とラグビー日本代表に関して話し、エディー・ジョーンズ監督が用いたスローガン“ジャパンウェイ”を説明。大きな相手に勝つ“忍者Body”、敵の弱みを見つける洞察力“侍Eyes”、古来からの規律・チームワークを現代に適用した“モダン武士道”の3つにブレイクダウンした話をしたところまさに今、日本がやらねばならないことであるとコトラー教授も賛同したそうである。さらにジョーンズ監督は、日本では“できないこと、Cannot do”の精神が多い中“やれば出来る、Can do”の文化を作ってゆくことが大事と説いており、このCan doはまさにマーケティングに通じて日本にイノベーションを起こし産業や地方を再生するのに必要ではないかと締めくくった見事なスピーチであった。
マーケティングの父が語った“Digitize or die”の神髄
その後はキャロライン・ケネディ在日駐米大使のビデオメッセージおよび、本サミットのカウンシル代表の高岡浩三ネスレ日本社長の挨拶が行われた後に、コトラー教授の基調講演が始まった。本イベントの意義を、マーケティングを通じて世界の人々の生活を良くすることと規定したうえで、前述の小泉議員のスピーチを受けて「次に出す3冊の本のタイトルは“侍マーケティング”“忍者マーケティング”“武士道マーケティング”」と話し会場を沸かせた後、「それはまんざら嘘ではない」と続けたのである。
コトラー教授によると、現在のUBERやAirBnBのような「ビジネスディスラプター」と呼ばれる存在は、1970~80年代は日本であったという。日本は自動車、オートバイ、テレビ、カメラ、腕時計、エレクトロニクスなどの産業リーダーになり、そして90年代に入り“カイゼン”“ジャストインタイム”“総合品質保証”などを世界に広めた。しかし、現在の状況は大きく変わってきており、“インターネット”がインフラとして普及し、“デジタル社会”が出現し、“アプリのエコシステム”が構築され“IoT:モノのインターネット化”が進行する中、既存のビジネスがディスラプト(=創造的破壊)されることになるか、あるいは逆にその現象を受け入れ取り込んで強化するかを選択する時代になって来ているのということである。
すなわちデジタル化に遅れた企業は死に直面することとなり、それがまさに“Digitize or die (デジタル化するか死ぬか)”という言葉に表されているのである。筆者は常に驚かされるのだが、マーケティング父として50年以上活躍している84歳の人が明快な理論を掲げ、インターネットやIoTなどの本質を理解し啓蒙しようとしていること自体がイノベーションではないかと考えるのである。
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