『編集会議』2016年春号では、「出版産業の未来を考える」を特集。「本は本屋で買うもの」という、これまで疑われることのなかった常識を打ち破ろうとする動きがある。本の可能性を広げるべく、小さな取次をスタートさせたのは、校正・校閲を事業とする鴎来堂 代表であり、書店 かもめブックスの店主の柳下恭平氏。「誰にでも本屋がオープンできる」イノベーションに迫る。
柳下恭平 Kyohei Yanashita
鷗来堂 代表 /かもめブックス 店主
1976年生まれ。書籍校閲専門の会社「鷗来堂」代表であり、書店「かもめブックス」店主。世界各地を旅した後、校閲者となり、28歳のときに「鷗来堂」を設立。2014年11月に「かもめブックス」をオープンさせた。
他業態の店に「本屋機能」をプラス
──“小さな取次”という新たな流通サービスとして、昨年から事業を始められた「ことりつぎ」とは、どういったサービスなのでしょうか?
一言で言えば、誰でも本屋をつくることができる仕組みです。最近、本屋にカフェなどを併設して、本屋に来てもらうきっかけを広げようとする動きが増えていますよね。そうしたものが「ブック+」だとすれば、ことりつぎが目指すのは「+ブック」。本屋以外の業態でお店を構えているところに、気軽に本屋の機能を「プラス」できるサービスです。誰でもどこでも好きな本を自由に仕入れることができるように、本の仕入れや販売管理・在庫管理はアプリを通じて行い、さらには本棚のつくり方や見せ方もサポートします。
たとえば、美容室の一角にヘアスタイルや美容に関連する本を置く、酒屋にお酒に関する本を並べる、あるいは企業が受付に販売用の本棚を設ければ、ブランディングにもなりますよね。それらはすべて販売されている本であり、そうすると、日本中の街角に小さな本屋がたくさん生まれると思うんです。
アイデア自体はシンプルです。ひょっとすると、過去にたくさん実験されてきたことかもしれません。僕がやりたいのは、本屋に普段行かないユーザーを巻き込むこと。無論、本屋は本屋でもちろん必要なのですが、そもそも本屋に来ない人と本をつなげることをしていかないと、最終的に本を買ってくれる人が減ってしまうんじゃないかと思っているんです。「ことりつぎ」ユーザーの小さな書店から、既存の本屋への動線をつくることも目的です。
