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『WIRED』日本版・若林編集長「編集者は『売る話』ばかりしてる場合じゃない」

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「編集者は『売る話』なんかよりも、『つくる話』にもっとちゃんとコミットするべきだ」と話す『WIRED』日本版の若林恵編集長。雑誌が売れなくなっている理由を「そもそも時代に合った雑誌がつくれなくなっているから」と一刀両断しながら、その背景にある問題について独自の視点で指摘する。

編集部は仕入れの仕事

『WIRED』日本版 編集長 若林 恵 氏

出版社における編集部っていうのは、レストランで言うと仕入れの仕事にあたる部門だと思っているんです。財務上の話で言うと、雑誌編集部は「売上」がつかない部門で、売上は基本広告部だったり販売部だったりのアカウントに入るので、編集部は基本割り当てられた予算を使うだけなんです。

つまり、そもそもが何かを「売る」部門ではなく、外から何かを「買ってくる」部門。製造業だと仕入れ部ってありますが、それです。

企画はもちろんするんですが、基本、あらゆる実製造は、ライター、カメラマン、イラストレーター、デザイナー、印刷所などがやるものなので、どっちかと言うと生産管理が仕事なんですよね。なので、予算をいかにうまく使って「いい買い物」をして、それを通して、いかにクオリティを担保するかというのが、編集者の本務だと思うんです。

企画と仕入れ。もちろん「いい買い物」の中には、取材対象の発掘など、いわゆる「ネタ」の仕入れも含まれます。

すし屋さんを例にとると、すし自体の販売価格やお客さんの質って、完全にネタの価格や質とリンクしていますよね。いいネタを入手できるチャンネルがあって、そこから安定的な供給を確保できるのであれば、地代の高いエリアに高級店も出せますが、それができなければ別の戦略を考えないといけない。

逆に言えば、いくら高級店をつくりたいと思っても、それに見合う「仕入れ」の算段が立たなければ絵に描いた餅になってしまう。そりゃあ、村上春樹に小説を書いてもらえば、ものすごい売上が立つのはそうなんですけど、アクセスが限定されている上、大枚をはたけばアクセスが開くというものでもないんですよね。

つまり「売る」戦略は、常に「仕入れ」の戦略と結びついていて、いくら「売る」話を綿密にやったところで、仕入れの算段と結びついていない限りは意味がないんです。

そのことをちゃんと考えないITっぽいやり口っていうのは、仕入れを「クラウドソースする」というもので、それ自体が悪いわけではないですし、ネタをクラウドソースしてすし屋をはじめるってアイデアはあり得たとしても、まあ、普通に考えるといいマグロなんか絶対手に入らないわけですよね。

というような話を業界全体が見くびってきたという印象があって、いま言ったようなITっぽい手口にうっかり乗っかると、単なる横着に帰結することになり、DeNAの問題のようなことが起きるわけです。

「いかに売るか」にとらわれすぎている

みんな出口の話ばっかりしてて、一向に入口の話をしないことに、ずっと腹を立ててきたんです。仕入先の選択肢が狭まると、その分出口も狭まるということなので、仕入れ先のマーケットをどう開拓・開発するのかは、その財務上の使命からも、編集にとって本来最も重要なことですよね。

プロデュース力なんてふわっとしたこと言ってないで、編集者は、ちゃんとコンテンツとそれを調達するためのマーケットに向き合うべきだと思います。うちは、イラストレーターも写真家も、やたらと海外の人を使っていますけど、世界に目を向けると仕入れの市場は本当に豊かなので、より日本の市場の空洞化、クオリティの低下は目につくんですが、これって産業自体の存続にかかわる問題ですよね。

『編集会議』さんのこの特集なんかもそうだと思うんですが、「いかに売るか」という話ばかりにみんなが気を取られてる状況ってどういうことかと言うと、「自分たちはいいものをつくってるけど、売り方が間違ってるに違いない」って仮説のなかにいるってことですよね。

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そこを突いて、マーケティングにおける手法論が幅を利かせることになるわけですが、いい加減、それももうデッドエンドなわけですよね。これって、「売る」戦略から「つくる」戦略を立案するという道筋が、もはや限界にあるということなので、考え方の手順を変える必要があるんです。

で、それはそもそも、自分たちが思ってる「いいもの」って、本当に「いいもの」だったんだっけ、という反省からはじまるものだと思うんです。

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