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なぜ教員養成の場で「プレイフル」なのか — 「プレイフル・シンキング 決定版」によせて(荒木寿友)

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『宣伝会議のこの本、どんな本?』では、弊社が刊行した書籍の、内容と性格を感じていただけるよう、「はじめに」と「あとがき」、そして、本のテーマを掘り下げるような解説を掲載していきます。言うなれば、本の中身の見通しと、その本の位置づけをわかりやすくするための試みです。

2009年に『プレイフル・シンキング』が刊行されて以降、私は大学の教員養成科目「教育方法論」という授業でテキストとして用いてきた。一般的に教育方法学の授業では、教育方法学の歴史や理論、数々の教育実践、教育技術(テクニック)、ICT教育などが扱われているテキストを用いることが多く(私も一応これらについては授業で扱います!)、『プレイフル・シンキング』を用いている授業は稀有な存在だと思う。

上田信行『プレイフル・シンキング 決定版 働く人と場を楽しくする思考法』宣伝会議
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なぜか?そこには明確な理由がある。

教育方法学は、端的に示せば「どのように教えるのか」について探究していく学問であるが、私は「誰がどのように教えるのか」という、「誰」の部分、つまり教師の人間性を大切にしたいと考えている。たとえば、同じ教材を用いても、教師Aと教師Bでは授業展開が全く異なることがある。教師が持っている哲学、あり方、考え方といった教師の人間性を無視した授業実践はありえない。こういった教師の人間性が、語り口や仕草、表情にも波及し、それらが子どもに多大な影響を与える。

その点において、『プレイフル・シンキング』はマインドセットの観点から自分自身の人間性をやさしく暴露してくれる。教師自身が固定的マインドセットを持っているのに、どうして子どもたちをプレイフルにできるだろうか?

成長的マインドセットは、今やOECD(経済協力開発機構)のEducation2030においても社会情動的スキルの一つとして位置づけられている。教師そのものが成長的マインドセットを有したプレイフルな存在であることが、子どもの成長を促していく大きな環境要因となり、結果的に子どもたち自身が未来を切り開いていく。これが『プレイフル・シンキング』を教員養成の授業で用いる大きな理由だ。

ただし、プレイフルという言葉には危険な香りも漂っている。個人の世界に対する認識の持ち方に過度に傾斜しすぎると(要は自己変容ばかりを追い求めると)、社会問題そのものに目が向かなくなる。個人と社会の両者の変容という意識を持ちつつ、それらを常に「クラッシュ」(clash)させていく、そういった視点が必要なのだと思う。

荒木寿友(あらきかずとも)
立命館大学大学院 教職研究科 教授

2003年京都大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。NPO法人EN Lab.代表理事。専門は道徳教育、教育方法学、ワークショップ、国際教育。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、『ゼロから学べる道徳科授業づくり』(明治図書、2017)年。編著に『道徳教育はこうすれば<もっと>おもしろい』(北大路書房、2019年)、『未来のための探究的道徳』(明治図書、2019年)など多数。

 

目次

序章 プレイフル・エンジンをスパークさせよう
あなたはCan I タイプ?それともHow can I タイプ?
ネガティブに考えてしまう人の心理
誰もがプレイフルになれる思考法
『セサミストリート』の制作現場で感じたプレイフルな空気
「働くこと」を「学び」の視点で見てみると?
これからの時代の求められるプロフェッショナルとは?
ドキドキをワクワクに変える
つらいだけの人生はつまらない
楽しさにこそ仕事の本質がある
状況に応じてプレイフル・エンジンをスパークさせよう
 

第1章 見方を変えれば気持ちも変わる

プレイフルを阻害する心のあり方
フィックストマインドセットvs.グロウスマインドセット
 ①固定的知能観vs.成長的知能観
 ②よく見せたいvs.よくなりたい
 ③失敗は過ちvs.失敗は自己投資
 ④自己防衛vs.課題挑戦
僕らはみんなプレイフルな存在だった
コチコチな心から自由になる—メタ認知
仕事をおもしろくする—課題設定
可能性は「状況」のなかにある—How can we do it?
素材を使いこなす—ブリコラージュ仕事術
プレイフルに働くために大切な4つのP
やる気がないのは本人の問題なのか
認知的ハイヒールを履いて学びを深化させよう
心のゲージを自由に動かそう
 

第2章 目標をデザインしよう

認知心理学的に見た「目標」の役割
成績目標と学習目標をバランスよくもつ
長期目標と短期目標をすりあわせる
メタレベルから省察する
体験を経験に熟成させる
省察を超えて即興の世界へ
目標はダイナミックに変化する
 

第3章 足踏みしないでチャレンジしてみよう

一歩を踏み出す勇気をもとう
足場をかける
ときには他者評価もバネにしよう
仕事のやり方はひとつではない
失敗は恥ではない
制約を超える楽しさがある
 

第4章 形にしないとはじまらない

アウトプットは省察のもうひとつのカタチ
ビジネスで使えるプレイフル・アウトプット
 ①ポストイット
 ②ロッケンロール(大きなロール紙)
 ③レゴブロック
プロトタイプをつくる
プレイフル・プレゼンテーション
 

第5章 もっと他力を頼りなさい

知能や能力は分散して存在する
憧れの最近接領域
クラッシュを恐れない
自分の枠組みを広げてみる
境界線がどこまで広がるか試してみる
プレイフルに対話する
わかりあえない壁に立ち向かうとき
「何をやるか」より「誰とやるか」
もっとも新鮮な素材は現場にある
誰もがデザイナーになって、もの作りに興奮する
わたしたちの時代、プレイフル・カンパニーの時代
 

第6章 人をプレイフルにする環境の力

ハンズオン!の環境が学びを楽しくする
プレイフルな働く場をデザインする
〈空間編(K)〉
 ①空間と活動をリンクさせる
〈道具編(D)〉
 ②キューブで意見交換
 ③パスタでプレゼンテーション
 ④風船で自己紹介
 ⑤ランチョンマットでおもてなし
 ⑥市販の板チョコが特別なプレゼントに変身
 ⑦ドレスコードで参加意識を高める
〈活動編(K)〉
 ⑧TKFモデル(つくって、かたって、ふりかえる)
 ⑨イタリアンミールモデル
 ⑩ドキュメンテーション(記録する)
 ⑪100の線引き
 ⑫レゴの高積み
 ⑬みんなで似顔絵
〈人編(H)〉
⑭多層的なコミュニティ
日常にワークショップを取り込んでみよう
[コラム]ケーススタディ 企業のプロジェクトとにワークショップを取り入れてみた
 

終章 プレイフルに働く場としてのオフィスの可能性

オフィスを変えて、働き方を変える
「自分たちの場所」にする
プレイフルOSを入れよう
 

おわりに

資料・僕の学びとメディアストーリー