「パーセプションフロー・モデル」が示すエージェンシーの役割

消費者の認識(パーセプション)変化を中心としたマーケティング活動の全体設計図である「パーセプションフロー・モデル」。マーケティングの4P、すなわち製品、価格、流通・店頭、施策などの全活動を図示するもので、各活動が的確に配置され、連携し、全体最適を実現するのに有効で、音部大輔氏が消費財のブランドマネジメントに携わっていた当時に考案し、命名したものだ。

このパーセプションフロー・モデルについて詳述した書籍が12月1日に刊行になった。音部大輔氏著の『The Art of Marketing マーケティングの技法―パーセプションフロー・モデル全解説』(宣伝会議刊)だ。

パーセプションフロー・モデルは、ブランドマネジャーやマーケティングチームが現状認識や将来像を共有し、市場創造やブランド構築を計画・実行し、的確な判断を下すために活動全体を俯瞰する「技法」を紹介するものであるが、著者の音部氏とエージェンシー側でともに仕事をしてきた経験を持つFICC 取締役会長の荻野英希氏は「企業のマーケティング活動のパートナーであるエージェンシーに属する人にとっても身に着けるべきものである」と話す。

デジタルマーケティングを中心に活動してきた荻野氏がパーセプションフロー・モデルと出会い、総合的なマーケティング支援に携わるようになっていった経緯と仕事における実践について話を聞いた。

デジタル施策の最適化提案に「質は量の係数でしかない」

音部さんの新刊『The Art of Marketing マーケティングの技法-パーセプションフロー・モデル全解説』 の第3 章、「『全体最適』の実現による効用」の中で、マーケティングに関わる全エージェンシーがパーセプションフロー・モデルに基づいて自主的に連携し、共同提案を行ったという話があります。この話の中で「デジタル」の分野を担当していたのが、私が当時、代表を務めていたFICCです。美談のように書かれていますが、私にとっては大きな成長を要する試練の時でした。当時の音部さんは、デジタルメディアに対して懐疑的であり、それまで無造作に行われていた投資を削減しようとしていたのだと思います。

当時はYouTubeやソーシャルメディアの広告など、広いリーチを獲得できるデジタルメディアは存在せず、施策はWebサイトやメールマガジン、ブログなどに限られていました。効果測定を通じてコミュニケーションの質を改善できても、スケールの大きい消費財マーケティングにおいて、大した影響力は発揮できなかったのです。

私の細かい最適化の提案に対しても、「質は量の係数でしかない」という指摘を頂きました。いま思えば、ブランドの収益成長の責任者として、デジタル施策への過剰な投資を削減することが正しい判断でしょう。しかし、自分を「新進気鋭のデジタルマーケター」と思い込み、少し調子に乗っていた私にとってはとても悔しいことでした。それでも、音部さんは私をチームの一員として受け入れてくれて、トレーニングをしてくれたのです。

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