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ブランドに関する悩みのほとんどは「パーセプション」に行き当たる

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「パーセプション(認識)」に着目することは、消費者中心のマーケティング実現の第一歩である――。2022年11月に発売された書籍『パーセプション市場をつくる新発想』(日経BP)を執筆したPRストラテジストの本田哲也氏と、「パーセプションフロー®・モデル」の提唱者であり『The Art of Marketing マーケティングの技法』(宣伝会議)の著者である音部大輔氏、花王グループの化粧品メーカー「エキップ」でパーセプションフロー・モデルを導入している鳥橋葉子氏に、パーセプションをテーマに話し合った。

名前だけを覚えてもらうことには価値はない

――書籍のテーマとして「パーセプション」に着目したのはなぜですか。

本田:今回出版した『パーセプション市場をつくる新発想』は、2019年からパーセプションをテーマに取材を重ねてきた連載をまとめたものです。私はPRの専門家として25年近く、プレーヤーとして活動してきましたが、「パーセプション」という言葉はPRの領域で使われることが多い印象です。

私はパーセプションを「認知」ではなく「認識」と定義しています。「知っている」ではなく、どうとらえているか。企業やブランド側からすれば、客観的にどう見られているか、そこが一番のポイントです。

本田哲也氏(本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト)

本書にも記している「Perception is Reality(客観的な認識こそが現実)」は、世界的なPR業界でもよく聞くフレーズです。PRは一方的な発信ではなく、メディアなど第三者との関係をいかに築いていくかという発想に基づいているため、第三者によるパーセプションを理解せずに活動することはできません。だからこそPRのプロフェッショナルはパーセプションに対する意識も強まるし、言葉もよく使う。日本で広まったのは音部さんが提唱する「パーセプションフロー・モデル」がきっかけではないでしょうか。

近年、ブランド過多の市場環境で、認知向上も大事なことですが、自分たちをどう伝えるのかが重要になっています。お客さまからどう見られているのかを把握しておかないとPR活動はもちろん、マーケティング活動も行き詰まるという状況にあり、パーセプションへの注目度も上がってきたと考えています。

音部:私が「パーセプションフロー・モデル」の原型といえるものをつくったのはもう25年以上前のことで、「パーセプション」も当時から使ってきました。そのことは2021年12月に発行した書籍『The Art of Marketingマーケティングの技法』に記した通りです。

何かを好きになるとき、普通はその名前を知ってから好きになるのではなく、好きになってから名前を覚えますよね。少なくとも私自身、名前だけ覚えてもらって、好きにつながったという経験はありません。無駄とまでは言いませんが、名前しか知らない認知は無価値じゃないでしょうか。

音部大輔氏(クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役)

本田:知っていることと好きかどうかはイコールではありません。「悪名高き〇〇」という言葉もあるわけで。だからパーセプションフロー・モデルでも、パーセプションを変えていくためにどんな「知覚刺激」が必要か、という話になるわけです。

認知を拡大させることが売り上げにつながった時代もありました。その成功体験から「まずは認知(を取ろう)」と考える人もいる。スタートアップを率いる若い世代でさえ、とにかく知ってもらわないと、という認知の呪縛にとらわれています。

消費者を知ることがマーケターの存在意義

本田:たくさんの企業やブランドの悩みに触れて感じるのは、そのほとんどがパーセプションの問題ではないかということです。モノが売れない、Z世代にアピールできない、戦略PRの必要性を感じているなどの課題を深く探っていったときに、やっぱりパーセプションに行き当たる。パーセプションを考えることが解決につながるのではないかというのは肌感覚としてあります。

音部:P&Gでは、会社組織としての上下関係は存在しつつ、議論の際は消費者のもとに対等であるべきという信念がありました。上司に対しても消費者起点であれば「それは違う」と言いやすい文化がある組織は消費者中心の発想を持ちやすい。

社内の他部門と交渉や調整を行う際、各部門に「後ろ盾」といえる存在がいるものです。営業であれば顧客です。「クライアントの意向はこうだから」と押してくるはずです。経理財務ならお金の流れ、人事なら組織や採用がそれに当たるでしょう。

マーケティング部門にとっての後ろ盾は、消費者です。それがないと「何を根拠に話をしているんだ」と言われて、存在意義そのものを失ってしまいます。

本田:「俺はそう思う」ではダメなんですよね。

販売スタッフにも「全体設計図」を共有する

――エキップは、音部さんの協力のもと社内でワークショップを開催し、パーセプションフロー・モデルを導入しました。組織ぐるみで学び、「マーケティングの全体設計図」を共有したことで、どんな成果が得られましたか。

鳥橋:組織内の共通言語として「パーセプション」が浸透し、ブランドにかかわる関係者全員が同じ目線で一気通貫した戦略や施策を考えられるようになったことです。マーケティング部だけではなく、営業部も同じ意識を持ちはじめたことは大きなポイントになりました。

あるブランドで、新商品が想定ほど売れなかったことがありました。そのレビューで営業部の人が、パーセプションフロー・モデルを持ち出してきて、解決策を話し合うことを提案してくれたのはうれしかったです。

鳥橋葉子氏(エキップ D2C統括部 兼 システム統括部 部長)

営業はお客さまと日々接している販売員とやり取りしているので、実はお客さまのパーセプションについて考える機会はマーケターよりも多いのです。だけど、これまではそれを考えるのはマーケティングの仕事で、自分たちは物を売っていればいいという意識がどこかにあったと思います。そこが「自分たちこそお客さまのパーセプションを考える機能を持っている」に変わりました。

音部:販売員の方もパーセプションフロー・モデルを見ているのですか。

鳥橋:社長から各ブランドの戦略について店舗の店長へ周知する機会があります。そこでこのようなパーセプションフロー・モデルをつくっていて、販売員にはそのうちどの部分を担ってほしいかということに加えて、PRやデジタル担当の役割や仕事も伝えています。

音部:それは素晴らしい。

エキップは「RMK」「SUQQU」「athletia」の3ブランドを展開する

本田:音部さんもパーセプションフロー・モデルの効用として、社内外のメンバーが目線を合わせられることを重要なポイントの一つとしてあげています。エキップのように、販売員さんまでがモデルを見て、お客さまの声を聞き、それをどう思うかというのは大きな違いがあると思います。

「あなたの仕事はこれ」と担当業務のみ指示されるよりも、全体の中で担当業務はどんな位置付けで、どんな意味があって、何を自分が担っているのかがわかった方が、現場にとってもモチベーションも上がるし創意工夫も生まれやすい。マーケティング自体が複雑化している中ではすごく大事なことです。これはカスタマージャーニー・マップとも違うんですよね。

鳥橋:カスタマージャーニー・マップですと販売員は「購入」のところだけ関わっておけばいいという認識にとどまってしまいがちです。パーセプションフロー・モデルを使うことでそうではなく、最初の認知を変えるところからが役割ですよと言えるようになりました。

後編に続く
 

パーセプション 市場をつくる新発想

モノと情報があふれる時代では、どれだけ便益のある商品・サービスを開発し、テレビCMなどで認知度を高めても、好ましいパーセプション(認識)がなければ購入には至らない。「みんなが知っている」の先にある、「みんなにどう思われているか」が重要な時代です。本書にはサンリオ、資生堂、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)、森永製菓、ワークマンといった大手企業から、名刺管理サービスのSansan、AI(人工知能)教材のatama plusといったスタートアップまで、パーセプションのコントロールで売り上げ増加などにつなげた15社を超える事例を収録。さまざまな事例を基に、5段階でパーセプションを有効活用する方法をやさしく解説する。

 

The Art of Marketing マーケティングの技法
― パーセプションフロー・モデル全解説

メーカーやサービスなど、様々な業種・業態で使われているマーケティング活動の全体設計図「パーセプションフロー・モデル」の考え方から使い方、つくり方、検証の仕方までを詳細にわたって解説。「パーセプションフロー・モデル」を効果的に活用することで、「個々の施策がバラバラで有機的に連携していない」「チームの意識統一ができていない」といった、部分最適が引き起こす事態から抜け出すことができます。ダウンロード特典あり。

 
 

本田哲也氏(ほんだ・てつや)
本田事務所 代表取締役/PRストラテジスト

「世界でもっとも影響力のあるPRプロフェッショナル300人」に『PRWEEK』誌によって選出されたPR専門家。1999年に世界最大規模のPR会社フライシュマン・ヒラードに入社。2006年にブルーカレント・ジャパンを設立し代表に就任。2009年に『戦略PR』(アスキー新書)を上梓。P&G、花王、ユニリーバ、サントリー、トヨタ、資生堂、ロッテ、味の素など国内外の企業との実績多数。2019年より株式会社本田事務所としての活動を開始。
近著に『パーセプション 市場をつくる新発想』(日経BP)のほか、『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『ナラティブカンパニー企業を変革する「物語」の力』(東洋経済新報社)など。

 

音部大輔氏(おとべ・だいすけ)
クー・マーケティング・カンパニー 代表取締役

17年間の日米P&Gを経て、欧州系消費財メーカーや資生堂などで、マーケティング組織強化やビジネスの回復・伸長を、マーケティング担当副社長やCMOとして主導。2018年より独立し、現職。消費財や化粧品をはじめ、輸送機器、家電、放送局、電力、D2C、医薬品、IP、BtoBなど、国内外の多様なクライアントのマーケティング組織強化やブランド戦略を支援。博士(経営学・神戸大学)。著書に『The Art of Marketingマーケティングの技法』(宣伝会議、日本マーケティング学会「日本マーケティング本大賞」で2022年の大賞受賞)、『なぜ「戦略」で差がつくのか。』(同)、『マーケティングプロフェッショナルの視点』(日経BP)などがある。

 

鳥橋葉子氏(とりはし・ようこ)
エキップ D2C統括部 兼 システム統括部 部長

ITコンサルタント・マーケティングコンサルタント等を経て、2004年より日本ロレアルへ。化粧品ブランドのデジタルマーケ・CRMを推進、Divisionにおける新規CXMプロジェクトリーダーも兼務。2018年より家具のサブスクを手掛けるsubsclifeにて、マーケティング部長・事業アライアンス部長を務める。2020年より花王グループの化粧品メーカー、エキップに入社。「IT」×「マーケティング」の2軸の経験を生かし、D2C統括部を立上げ、顧客ファースト志向、OMO、D2Cの領域を、ブランド横ぐしで推進している。