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ESG情報の発信で重要なのはパーパスと一貫性 投資家の共感集め企業価値高めるコミュニケーションを

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広報実務者のための専門誌、月刊『広報会議』(6月号)では、5月1日に企業の「サステナビリティ情報」をテーマにした特集号を発売します。人的資本、環境対策などの「これからの伝え方」や、メディアも関心を持つESG発信の事例などをレポートしています。本記事では、6月号のうち「企業価値を高めるESG情報をどのように発信すれば良いのか」について、企業のESG研究に従事している慶應義塾大学総合政策学部教授 保田隆明氏に聞きました。
※本記事は、『広報会議』6月号の転載記事です。

企業価値を持続的に高めるため、ESGへの取り組みが求められる昨今。投資家の評価を集めるにはESG情報の開示も重視されている。社内外への理解を促し共感を集めるための情報開示のポイントとは。

Q1
ESGに関する情報発信の重要性が高まっているのはなぜですか?
A
企業がESGの取り組みを正しくは発信しないと評価につながらず、投資も集まらない流れになっているため。

本業で社会課題を解決

最初に押さえておくべきは、ESGは単に社会貢献を促進するものではないということ。社会貢献ではなく、まだ満たされていないニーズである「社会課題」を本業のビジネスの力で解決していくことを指します。つまり、ESGは環境や社会に負荷をかけながら儲けていることへの贖罪としての社会貢献といった文脈ではなく、「収益の拡大」と「社会貢献」を両立させる考え方です。

では、なぜ今ESGの取り組みが重要なのか。そこには環境意識の高い「消費者」に加え「機関投資家」(顧客から拠出された資金を運用・管理する法人投資家の総称)の存在があります。背景を振り返っておくと、2006年に「責任投資原則」(PRI)が提唱され、機関投資家にESG課題(環境、社会、企業統治)への考慮が求められるように。この原則に署名した機関投資家によって、企業がESGの取り組みを行っていないと評価(投資)されない流れになったのです。

利害関係者への配慮アピール

これに伴い、企業には「株主資本主義」(会社は株主のものであり、株主の利益を最大化するために経営されるべきという考え方)から、「ステークホルダー資本主義」へ脱却することが求められています。「ステークホルダー資本主義」は、株主だけでなく、顧客・取引先・従業員などすべての利害関係者へ対し、企業活動を通じて貢献すべきという考え方です。

「株主の利益」を追求するのは重要ですが、それによって「ほかのステークホルダーが犠牲を払うべきではない」ことを強調しています。つまり、サプライチェーンなどでの児童労働を黙認して、原料を安く調達し企業と株主のみが利益を得るようなビジネスモデルは評価されません。すべてのステークホルダーのウェルビーイングに配慮した経営と、その情報開示が求められるのです。

反ESGには丁寧な対話が必須

一方、最近は一部の地域でESGへの逆風も聞こえてきますが、これはE(環境)をS(社会)とG(企業統治)と分けて議論すべき問題です。SとGは揺り戻しが少ない一方で、Eの環境関連については利害関係者が多いため、反対意見が出やすいのです。一例として、化石燃料が豊富に採れる米テキサス州では、「化石燃料企業への投資を見送る」といったうねりに反対する流れが加速しています。

ここでの反省点は、ステークホルダーに対して対話をすることなく、ESGの推進のために強いメッセージを唐突に発信したこと。ただ、温暖化ガスの排出を削減しないと地球の破壊につながるのは必然のため、ESG重視の流れは不可逆的でしょう。「段階的にクリーンエネルギーに移行していく」といった丁寧な発信で理解を得ることが重要です。ESGの発信を腹落ちさせるために、企業の広報担当者にもステークホルダーに配慮したコミュニケーションが期待されています。

Q2
ESGに関する情報をどのように伝えれば、投資家や消費者といったステークホルダーの評価につながりますか?
A
「社会的に正しいことをしよう」と押し付けるのではなく、共感されるメッセージの発信が重要です。

取りくみとパーパスの連動

ESGは端的にいえば「社会的に正しいことをしよう」という流れ。しかし、このメッセージをそのまま伝えるのでは、人の心は動きません。事業価値に加え、社会価値の追求という自社の「パーパス(企業の社会的な存在意義)」をいかに伝え、投資家をはじめステークホルダーの共感を得るかが鍵となります。昨今はパーパスを打ち出す企業が増えており、その多くは何らかの形で社会貢献性をうたったものです。パーパスとESGの取り組みを紐づけると「なぜこの取り組みを行うのか」が伝わりやすく、株主や顧客といったステークホルダーの賛同を得ることができるのです。

投資家へ自社の情報を伝える「統合報告書」にも、パーパスを効果的に活用すべきです。現状の多くの統合報告書は、画一なフォーマットの上で「社会的に正しいことをしている」とアピールするだけで独自性がない。「面白くない」ので、隅から隅まで読んでいる投資家はほとんどいないでしょう。この企業の独自性を補うのに必要なのはやはり“パーパス”です。パーパスを掲げた上で、そこに紐づく事業展開の方向性や思いを語ることが、独自色の強く説得力のある統合報告書につながるのです。

ストーリー(付加価値)の提供

ステークホルダーの一員である消費者の共感を得ることも重要です。例えばある消費財メーカーは、主力ブランドに使用する原料を、環境配慮に関する認証を得ているサプライヤーからの調達に切り替えました。自然環境を守り、サプライヤーの生活水準の向上にも寄与しながら、高品質な原料の安定確保を実現したのです。しかし、切り替えに伴い商品の単価も上昇することに。そこでその背景を、企業のHPやプレスリリースなどで、消費者や取引先などへ丁寧に訴求しました。その結果、売上が高まりブランド価値の向上にもつながったのです。

この成功要因は、単価が高くなる分、製品の背景にある課題の解決に寄与できるという「ストーリー」を伝えたことです。この場合、消費者は環境破壊や人権侵害といった課題を解決できる「ストーリー」にも対価を支払っています。また販売する国や地域の文化にあわせて表現や伝え方を変えたのも一因です。このように、「ストーリー」に価値を感じさせるような、心の琴線に触れる発信を心がけるべきでしょう。

Q3
パーパスは「人的資本」情報を伝える際にも有効でしょうか。
A
パーパスは従業員にこそ効果を発揮するため、「人的資本」情報の開示にも欠かせない存在です。

従業員の満足度と貢献意欲に寄与

パーパスと紐づけたESG施策の発信が最も効果を発揮するのは従業員に対してです。例えば自社の利益を追求するために、人権侵害に加担するビジネスの場合、そこに違和感を覚えたり、また会社が掲げているパーパスとの矛盾に良心の呵責が生じたりする従業員もいるでしょう。このため、パーパスに紐づき「社会的に正しい」ことをしていると明確に実感することは

続きは、『広報会議』2023年6月号特集『企業のサステナビリティこれからの伝え方』でお読みいただけます。
『広報会議』2023年6月号、不二製油グループなど、ESG情報の発信における先進企業の事例も多数紹介しています。ぜひご覧いただき、自社のESG・サステナビリティ情報の発信にお役立てください。

慶應義塾大学
総合政策学部教授
保田隆明(ほうだ・たかあき)

リーマンブラザーズ証券などに勤務後にSNS運営会社を起業。売却後、神戸大学大学院経営学研究科教授などを経て、2022年4月から現職。2019年より2年間スタンフォード大学客員研究員としてESGの研究にも従事。

広報会議2023年6月号

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【特集】
企業のサステナビリティ
これからの伝え方

GUIDE
一貫性ある開示が企業価値高める
保田隆明(慶應義塾大学総合政策学部教授)
 
OPINION1
長期視点で評価される企業のESG情報とは
伊井哲朗(コモンズ投信 代表取締役社長 兼 最高運用責任者)
 
COLUMN
ポイントをしぼったサステナビリティ発信
関 美和(MPower parters ゼネラル・パートナー)

共感の輪を広げる「人的資本」の戦略的な伝え方
双日/KDDI/SOMPOホールディングス
 
OPINION2
人的資本の情報開示、広報の役割とは
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OPINION3
メディアから見た
「ESG」発信の蓄積が上手い企業とは
会社四季報オンライン
 
【第2部】
ESG発信ケーススタディ
 
CASE1
世界初のCO2排出量実質ゼロフライトでメディア露出
日本航空(JAL)
 
CASE2
社会での自社の存在意義打ち出しパブリシティ獲得
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CASE3
未来を創造するための統合報告書
アバントグループ
 
CASE4
サイトでビジョンから商品を一気に紹介
オムロン
 
CASE5
ステークホルダーを巻き込み「本気感」伝える
不二製油グループ
 
CASE6
方針の明文化で従業員の当事者意識を醸成
ポーラ
 
CASE7
明確な目的掲げたインプットと議論の場づくり
TBM
 
CASE8
エアコン業界全体の脱炭素と発展に向けて
ダイキン工業
 
【第3部】
納得感を高めるサステナビリティ発信 実践編
 
OPINION1
ストーリー性のある開示・改善のサイクル
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OPINION2
学生から見た「統合報告書」
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COLUMN1
評価される「統合報告書」のポイントとは
イチロクザン二
 
COLUMN2
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ほか