米ウィキペディアに出てこない「AIDMA」
サミュエル・ローランド・ホールが『Retail Advertising and Selling』にて提唱した「AIDMA」。よく知られるように Attention/Interest/Desire/Memory/Action の5段階で構成された消費者行動モデルである。1910~20年代に考えられたと思われ、実に100年近くのちでもいまだ取り上げられるキーワードなのが興味深い。
しかしこの「AIDMA」、日本ではよく知られた言葉ではあるが、米国のウィキペディアではこの項目は存在せず、ホールよりも遡ること十数年、1898年にセント・E・ルイスが発表した「AIDA」モデルの方のみ説明されている。なぜ「AIDMA」が忘れられ「AIDA」が残っているのか、その理由は定かではないが、他にも「AIDAC」(最後の“C”はConviction〔確信〕。Actionのあとというのが面白い)、「AIDAS」(最後の“S”がSatisfaction〔満足〕を指す)といったモデルもあるので、きっと「AIDMA」も「AIDA」の一つの派生程度に捉えられているのだろう。
もともとルイスが「AIDA」を提唱するに至った経緯は、消費者が生命保険に加入するまでのプロセスだったらしい。新しいコンセプトを理解し、新しい商品を受け入れるまでこの4つのプロセスを経るのだと説明したのである。また、ある商品が購買されるまでのプロセスを考えると、「知っている人」、その中で「興味を持っている人」、次に「欲しいと思っている人」、そして「購入する人」と段々と人数が絞られてくる。このプロセスは通常、「ファネル(funnel=じょうご)」と呼ばれるが、これもルイスの「AIDA」モデルがあってこそ、となる。
さて、日本では「AIDMA」モデルから派生し、電通が発表し商標となっている「AISAS」モデルを筆頭に色々なモデルが存在する。5年ぐらい前に自分も個人ブログ「mediologic」でまとめてみたのだが(当時の記事)、ネットでの情報行動・購買行動も含めて細かく捉えてみると次のようになった。
A : Attention (注意)
I : Interest (興味・関心)
S : Search (検索)
C : Comparison (比較)
E : Examination (検討)
T : Trial (トライアル・試行・試用)
A : Action (購買)
S : Satisfaction (満足)
S : Share (情報共有/エバンジェリスト化)
R : Repeat (再購入)
R : Relationship (ロイヤル化・関係化)
XS/US : Cross Sell/Up Sell (拡大購買)
複雑に思えるかもしれないが、それぞれを「プロセス」としてとらえると次のようなことが見えてくる。例えば、ある商品が「知られていない」のであれば、Attention部分に課題があり、あるいは「検討されるけど買われない」のであれば Examinationの部分かTrialの部分に課題があるのだろう。前者であれば、マスメディアを中心にした「露出型」の広告は有効だろうし、後者であれば店頭やサンプリング、ないしはトライアルのためのキットやインセンティブが有効かもしれない。
既存のモデルだけでは説明しきれない
もっとも、消費者行動モデルは広告業界では「クロスメディア型キャンペーン」のための方便として使われているような気もする。しかしこれらの有効な利用法はやはり「一体、企業(広告主)と消費者との間で何が課題になっているのか」を考えるためのツールとして利用することだろう。ただ自分自身も実際これをもとにマーケティングプラン、キャンペーンプランを考えるようになり、しばらくして、このモデルだけでは説明しきれないことを見つけてしまうはめになってしまったのである。
前述したようにルイスが提唱した「AIDA」は、「新しい商品を受け入れるまでのプロセス」を説明するためのものだった。日本でも高度成長期付近を中心に「新商品」で溢れ、しかもそこに顕在化した(しやすい)ニーズが存在していたので、「AIDA」、「AIDMA」的な「Attention」、つまり認知を獲得するようなモデルで十分だったろうし、それが広告業界の成長を支えたのは紛れもない事実だ。しかし現在では「よく知られた」商品で溢れかえる。商品ブランドも企業ブランドも、「1から」伝えるものなんてほとんどないのではないか、と思ってしまうぐらいだ。(次ページに続く)
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