私たちの選択は、計画通りに行われるものばかりではなく、思いがけない出会いや衝動などの「偶発的」な要素に大きく影響を受けている──書籍『偶発購買デザイン 「SNSで衝動買い」は設計できる』は、こうした偶発的な購買を戦略的に作り出すことが、SNS時代にブランドの躍進につながると説いている。いまやこうした偶発的な選択行動は、購買行動だけではなく、より広範な人の選択行動にも見られるようになっているという。著者の宮前政志氏に、スキマバイト、カフェ来店、転職活動を例に、「計画」から「偶発」への変化が具体的にどう表れているのかを3回にわたって寄稿してもらった(今回の記事はシリーズの3回目です)。
転職はシナリオ通りにいかない?──計画転職vs.偶発転職のリアル
これまで「スキマバイト」「カフェ来店」の行動を「計画」と「偶発」の二つの視点から分析してきた。最後に、人生の転機である「転職」における「計画」と「偶発」を考えてみたい。キャリアの選択肢が多様化した現代においては、「どの会社でどんな仕事をしたいか」を明確に計画して動く──そんなロジカルな転職が一般的だとイメージされるかもしれない。しかし、リアルな現場の転職活動は想像以上に「計画通り」には行われていない。
2023年に電通が実施した転職市場調査によると、1年以内に転職を経験したビジネスパーソン(N=200)のうち、転職活動を始める段階で「この会社に行きたい」と最初から決めていた「計画転職」を実現したのは全体の32.4%。実に67.6%、つまり3分の2近くの人が「最初は計画していなかった」企業に転職した。さらにその偶発転職層のうち、77.1%は転職活動前には「社名すら知らなかった」会社に転職していた。
この傾向は、直感や偶然ではなく左脳的にロジカルに考えるイメージが強い、理系職にも当てはまる。IT・情報処理技術職(エンジニア、プログラマー)や研究職の職種でも、転職活動前に意向がなかった企業に実際に就職した率は67.3%と同水準で、そのうち72.7%は転職前には社名も知らなかった企業に就職していた。どれだけ緻密に計画したつもりでも、実際の意思決定のダイナミズムは、「登録した転職サービスからオファーを受けたから」などの「偶然(セレンディピティ)」に大きく依拠している。

