頭でっかちなクリエイティブディレクション論【前編】君の言っていることはすべて正しいけど…

君の言っていることはすべて正しいけど、面白くない

このパンチライン、2013年5月号の雑誌『広告』の特集テーマです。私は発売とほぼ同じタイミングで博報堂に入社したのですが、入社記念に配布された雑誌『広告』のこのテーマを見て、この先の社会人生活に得も言われぬ不安を覚えたことを思い出します。「すべて正しい」わけはもちろんないのですが、「面白くない」側にすぐ転ぶ方だという自覚があったからです。

はじめまして、博報堂/SIXでクリエイティブディレクター/ストラテジストをしています、藤平 達之(とうへい たつゆき)と申します。ストラテジックプラナー出身で、現在は、広告コミュニケーションはもちろん、パーパス起点でブランドをアップデートする中長期のプロジェクトや、サービス/アプリ/プロダクト/コンテンツ開発などの広義のクリエイティブワークを担当させていただくことが多いです。

このコラムでは、“正しいけど面白くない”存在になることを恐れる私が考える、クリエイティブディレクション(あるいは企画)における「型」「安定感」「再現性」といったことについて、お話できればと思います。今回は、なぜこのテーマにしたのかという背景や想いの話です。

8割の「理解納得」と2割の「意味不明」

雑誌『広告』に衝撃を受けてからの約4年は、ストラテジックプラナーとして、隣の芝生にいるクリエイターたちを見ていました。見るからにユニークな人が、見るからにユニークなCMやグラフィックをパッと生み出すその原理が1ミリも分からず、この上なく縁遠い場所としてクリエイティブという世界を眺めながら、「正しくて面白い戦略」を模索する日々でした(いま思うと、戦略というものもなかなかにクリエイティブです)。

しかしその後の定期異動で、タイミングとトレンドと采配が重なって、クリエイティブ部門に異動することになりました。2016年のことです。すぐにCDから「イベントとLPはいったん任せた」と言われたものの、何をしていいか本当に分からず、同期にチャットで質問して、「プロデューサー」という存在を教えてもらいました。まるでRPGのはじまりのようですが、お恥ずかしいことに、そのレベルで素人だったわけです。

そんな素人ながらも新人ではない駆け出しプラナーは、とある先輩の「ストプラ時代の知見や経験はいったん全部忘れるべし」というアドバイスをガン無視して(すいません)、CDの発言や先輩後輩の企画出しを必死に“分析”して学びにつなげていました。学びはたくさんあったのですが、一番大きかったのは「8割くらいは理解/納得できる話が、残りの2割くらいは意味不明な話がされる」という気付きです。加えて、「突然出てくる意味不明な2割が、その人の“らしさ”や提案の“突破力”である」ことも。そりゃそうだという感じですが、そこにはまず、思考が積み上がっていく様子や、横展開できる視座やアプローチがあったわけです。クリエイターたちがパッと生み出しているというかつての盛大な幻想も、無事に一掃されました。

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「器用貧乏」と「企画書マックス」と「頭でっかち」

わかるとできるは違う、とよく言いますが、それがわかったところでなにか大きな変化が起きたわけではありませんでした。ただし、当時の自分が唯一まともだったのは、まずは「8割」の方を磨こうと考えられたことだったと思います。しかしこれは、学生時代の美術の成績が10段階中3で、かつての研修中に「課題は柔軟性のなさ」と言われるなど、自分が持ちうる2割にほとんど期待していなかったゆえの消去法的発想だったのですが……。

ところで、「器用」も「企画書が上手い」も「頭がいい」も、クリエイティブの世界では揶揄の意味も込めて使われることが多い気がします。主に土台となる8割の方を褒めているからですね。「君の2割がどこにあるのかわからないけど」という枕詞が漂ってきます(行間を読みすぎている可能性もあります)。しかし、ストプラ出身ということも含めて、8割からスタートしないと、一生「正しくもないまま」だなと思ったわけです。

そこから数年間、そうした取り組みを面白がってくれた先輩・同期・後輩と、ときに自分たちが開発した小難しいフレームワークやメソッドに翻弄されながら、戦略とクリエイティブを行き来して、投資サービス・IoTプロダクト・Webドラマ・アパレルグッズなど主にマス広告以外の領域のアウトプットの経験を積んでいきました。

IMC・カスタマージャーニー・UXデザイン・パーパス・DX・ジョブ理論・AI・エビデンスベースドマーケなど、寄せては返すトレンドとも向き合い、普遍的に取り込めるものを見極め、自分たちのアウトプットやプロセスを振り返ったりもしながら、8割の安定感や再現性を高めて型にすることを目指しました。

そうして、やっとのことで「クリエイティブディレクションの味方」と(勝手に)題した雛形らしきものができました。超β版ですが、図にするとこのような感じになります。

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これは、“自分だけの2割”を生み出すために、新しい仕事、難しい仕事、大規模な仕事⋯どんな仕事にも大切な8割の基礎力を、出発点としての「定義」、到達点としての「実装」、その過程で必要な「姿勢」の3つに分解して、要素やアプローチを具体化してみたものです。

2割の生み出し方はむしろ教えてほしい

ということで、前編の内容はここまでです。ほぼ誰も興味のなさそうな自分語りが多くなってしまいました。というか、正しくも面白くもない可能性があって、ブーメランのようで本当にすいません。……と謝罪をしつつもお伝えすると、こんな感じの内容を、この秋からスタートする私の講座「クリエイティブディレクション講座 藤平達之クラス」でお届けする予定です(番宣)。講座は、以下の8コマ構成になっています。

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できるだけ体系的に、理論の解説よりは実践への応用をテーマに、「8割」の土台の方にフォーカスしてみる講座です。むしろそれを踏まえたとんでもない「2割」の生み出し方は、私も誰かに教えてほしいです。ご興味を持っていただけた方は、以下の講座概要をぜひご確認ください。本講座は、知名度の低さを、資料の熱量でカバーするタイプの講座です。頑張ります!

クリエイティブディレクション講座 藤平達之クラス 「クリエイティブディレクションの味方」 講座概要

講座サムネイル

開講日 2025年9月18日(木)19:00~21:00
講義回数 8回
開催形式 教室開催(宣伝会議表参道セミナールーム)
詳細・お申込 こちらから

また、講座の開始に先駆けて、7月30日(水)に無料体験講座をオンライン配信します。ご希望の方は、こちらから参加のお申し込みをお願いします。

後編では、定義・実践・姿勢のそれぞれについて、どのようなアプローチやスキルが必要だと考えているのかということを、もう少し具体的に記載してみたいと思います。もしかすると、中編/後編になってしまうかもしれません。ここまでお読みいただいた方、本当にありがとうございました!

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藤平 達之

博報堂/SIX
クリエイティブディレクター/ストラテジスト

1991年生まれ。一橋大学卒業後、2013年博報堂入社。クリエイティブブティック・SIX、官民共創クリエイティブスタジオ・Vegaにも所属。 「愛される/尊敬されるブランドを社会に増やす」という目標を持ち、パーパスと生活者発想の両視点から設計したコンセプトを、広告/コミュニケーションに留まらず、サービス/プロダクト、コンテンツやインナー活性化プログラムなど、さまざまな手法で体験にする。 これまでに「ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS 総務大臣賞/グランプリ」などを受賞。ad:tech tokyoなど登壇の実績も多く、自著に『クリエイティブなマーケティング』(現代書林)がある。 好きなものは、串揚げとジンとクッキー缶。

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