これは、ただのクリエイティブ事例集ではない。著者・杉山恒太郎が40年以上の広告人生で見てきたもの、感じたもの、そして信じていることが、しっかりと芯に通っている本だ。テーマは「THINK PUBLIC」。すなわち、広告は売るだけではなく、“公共の利益”にどう資するのかという問いかけだ。
ここに並ぶのは、商品を売ることが主目的ではない広告たち。いや、むしろ“広告という手段を使って世界の課題に挑んだプロジェクト”と言ったほうが正確だろう。例えば、南太平洋の島国ツバルが沈みゆく現実を「デジタル国家」として発信する話や、ラップランドの村がフィンランド大統領選に立候補する“演出”を通じて気候変動を訴える例。ユーモアと怒り、悲しみと希望が、世界中のNPOや行政、企業の手によって「広告」というフォーマットに詰め込まれている。
広告が「社会の鏡」だった時代から、「社会の行動者」としての可能性を帯び始めている現在。SDGsが企業のバズワードとしてではなく、組織の行動指針として浸透しつつある中、この本は「自分たちの表現が、社会にどんな風を起こせるのか?」という問いを、読む者にも突きつけてくる。
とくに、広告業界やメディアに携わる人には、自分たちが手がけるキャンペーンが「社会課題の解像度を上げる道具」になりうるという気づきがあるだろう。だが、むしろこの本は、行政、教育、NPOなど“広告とは距離のある世界”の人たちにこそ読んでもらいたい。アイデア次第で、誰もが“伝える力”を手にできる時代が来ているのだから。
この本を読めば、「広告とは何か?」の定義が変わるかもしれない。もっと言えば、「自分は何を伝えるべきなのか?」という問いに出会うかもしれない。
公共という概念が曖昧になり、社会がバラバラになりがちな時代だからこそ、広告は再び「人と人をつなぐ」可能性を持っている。それを、この本が証明してくれている。
読後、心のどこかで、少しだけ世界を変えてみたくなる。それが、真の“クリエイティブ”の力なのだと思う。

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』杉山恒太郎
(著) 河尻亨一(編集協力)
定価:2200円(本体2000円+税)
ISBN 978-4-88335-628-7
小学館「ピッカピカの1年生」、サントリーローヤル「ランボー」などで国内外の広告賞を多数受賞し、世界最大級の広告祭・カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの国際審査員を3度務めるなど、国内外で活躍するクリエイター 杉山恒太郎氏。
国内外のクリエイティブを熟知し、考察し続けている杉山氏による新刊『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』で取り上げる広告は、一般的に「公共広告」と呼ばれているものが多くあります。「公共広告」と聞くと、非営利団体や行政、国連関連組織によるキャンペーンを想像する方が多いかもしれません。しかし、本書では企業による公共サービス型の事例も織り交ぜながら、さらに一歩踏み込み、氏はこれからの広告のあるべき姿とし「THINK PUBLIC」を提言します。
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