およそ世の中には、本棚がかっこよくなる本とかっこ悪くなる本がある。『人生が変わる〇〇な方法』とか『〇〇がぐーんと伸びる10の習慣』みたいなタイトルの本が並んでいる本棚はまあぶっちゃけかっこ悪い。はじめて行った友人の家で本棚がそんな本ばかりだったとしたら、付き合い方を考え直す人も多いだろう。逆に、すごくお人好しのいい人なんだなという判断もできるが。同じダサめのタイトルでも、昔出た『電信柱の陰から見てるタイプの企画術』みたいなタイトルであれば、一周まわってむしろかっこいいと思うのだが、それはまた別の話だ。
で、『THINK PUBLIC』である。とりあえず英語である。シンプルである。なんとも知的な雰囲気が漂っている。おそらくかつてDDBがフォルクスワーゲンのために制作した伝説的な名コピー「THINK SMALL」や、言わずと知れたアップルの「THINK DEFFERENT」を意識している。ブックデザインもさすが「デザインの会社」を標榜するライトパブリシティの方がやっているだけあって、とてもスタイリッシュだ。少なくともほかの宣伝会議が出している本に比べて…いや、ほかと比較するのはNGが出そうなのでやめておくが、とにかくこの本、広告関連の本には珍しく、そこにあることによって本棚がかっこよくなる本、になっているのではないだろうか。
そして内容だが、公共的なメッセージを発信した過去数十年の世界の代表的な広告やクリエイティブの事例が、コンパクトに紹介されている。90年代初頭から、世界で通用する公共広告に挑戦してきたという杉山恒太郎さんにとっては、敗北の歴史というか、多少悔しさも入り混じっての紹介だと思うが、筆致はとてもクールで読みやすい。紹介されている事例の量も、多すぎず少なすぎず、適切な量だ。もはや時代的な潮流と言える、「広告から公告へ」の流れについて基本的な知識を得るためには最適な本と言えそうだ。元々「広告とはジャーナリズム」という持論をもっていたという杉山さんにとっては、まさに思っていた通りの時代がやって来たとも言えるのかもしれない。
この『THINK PUBLIC』、本棚をかっこよく見せるために、友人がやってくる時にさりげなく見えやすい場所に置いておく。のみならず、自分が頻繁に手に取りやすい場所に置いておいた方がいい本、でもあるかもしれない。企画に困ったときに、けっこう参考になりそうなので。

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』杉山恒太郎
(著) 河尻亨一(編集協力)
定価:2200円(本体2000円+税)
ISBN 978-4-88335-628-7
小学館「ピッカピカの1年生」、サントリーローヤル「ランボー」などで国内外の広告賞を多数受賞し、世界最大級の広告祭・カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの国際審査員を3度務めるなど、国内外で活躍するクリエイター 杉山恒太郎氏。
国内外のクリエイティブを熟知し、考察し続けている杉山氏による新刊『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』で取り上げる広告は、一般的に「公共広告」と呼ばれているものが多くあります。「公共広告」と聞くと、非営利団体や行政、国連関連組織によるキャンペーンを想像する方が多いかもしれません。しかし、本書では企業による公共サービス型の事例も織り交ぜながら、さらに一歩踏み込み、氏はこれからの広告のあるべき姿とし「THINK PUBLIC」を提言します。
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