公共広告の本――と聞くと、自分の業務とは無縁だと感じるマーケターは多いはずです。だからこそ、この一冊は“その人”に手に取ってほしい。少なくとも2〜3回、往復して読む価値があります。
私が杉山恒太郎さんに初めてお会いしたのは2005年。電通のクリエイティブのトップとして、東京藝術大学の社会人向けコンテンツビジネス講座を主導されていた頃です。電通の寄付講座でありながら、当時、博報堂DYMPのメディア環境研究所の研究員だった私を快く受け入れていただき、人生の転機となる経験をいただいたことに感謝しています。今振り返ると、こうした社会人向け講座も「公共性」の高い行動・コミュニケーションプロジェクトだと実感します。
まずお伝えしたいのは、この一冊は業界の名士が語る思い出話ではなく、現場で使える思想・設計書だ、ということです。
正直に言えば、私はカンヌライオンズの審査員として“公共系が強すぎる”ことに違和感を覚えた経験があります。日本企業は勝ちにくい、ここまでやり切らないだろう――と。しかし、その違和感こそ本書が日本のマーケティング産業に投げかける宿題だとも感じます。広告を「売る技術」に閉じず、「社会課題を含めた課題解決の技術」へと昇華する思想と設計を提案しているのだとハッとさせられます。
特に日本では「公共広告は説教くさい」という先入観があります。けれど、人は説教では動かない。人が行動するのは、腹の底から“納得”したときです。本書は、その納得を生むための強いアイデアと実装について、世界中の実例を基に、その設計図をケースごとに丁寧に解きほぐしてくれます。
この本の効能の一つは、各ケースの設計図がそのまま自分の現場に転用できる“思考の部品”として脳に蓄積される点です。読むほどに、頭の中の“学習データ”が増える。各ケースのインサイト・アイデア・実行案の関係は、少し検討を加えれば、あのプロジェクトに転用できるかもしれない――と思える。
数時間の読書で、これらの部品が一気に手に入る。繰り返し読めば、それが脳内の引き出しに蓄積される。――それが、本書がマーケターにもたらす実用的な“薬効”です。説教ではなく説得を、そして納得から参加・行動へ。公共広告のエッセンスは、広告コミュニケーション全般を前に進めるためのヒントに満ちています。
マーケターの仕事は、クリエイティビティとアイデアで「なるほど」と膝を打たせ、心を動かし、行動に変える回路をつくることです。本書は、その設計図を最新の実例とともに提示してくれる、実務に使える思想・設計書です。『THINK PUBLIC』――自分の仕事にどう使えるか、という観点で読めば読むほど、頭が自然に動き出す感じを味わえるはずです。

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』杉山恒太郎
(著) 河尻亨一(編集協力)
定価:2200円(本体2000円+税)
ISBN 978-4-88335-628-7
小学館「ピッカピカの1年生」、サントリーローヤル「ランボー」などで国内外の広告賞を多数受賞し、世界最大級の広告祭・カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの国際審査員を3度務めるなど、国内外で活躍するクリエイター 杉山恒太郎氏。
国内外のクリエイティブを熟知し、考察し続けている杉山氏による新刊『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』で取り上げる広告は、一般的に「公共広告」と呼ばれているものが多くあります。「公共広告」と聞くと、非営利団体や行政、国連関連組織によるキャンペーンを想像する方が多いかもしれません。しかし、本書では企業による公共サービス型の事例も織り交ぜながら、さらに一歩踏み込み、氏はこれからの広告のあるべき姿とし「THINK PUBLIC」を提言します。
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