働き方の多様化や人材の流動性の高まりなど、企業を取り巻く環境はここ数年で大きく変わってきた。そこで組織全体の連携強化を図るため、注目されているのがインターナルブランディングだ。2025年7月11日に大阪で開催された「マーケティングサミットリージョナル2025」では、イオン DE&I推進室の三村瞳氏と、産業編集センター 企画営業部の石原良平氏が登壇し、各社のインターナルブランディングの取り組みについて紹介した。
イオンが目指す、ブランド強化におけるDE&Iの推進
イオンが目指すDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)は、イオンがイオン(永遠)であり続けるためにこれらの推進を経営戦略の一つと位置付けている。
ダイバーシティの本格的な取り組みは、2013年の株主総会にて「女性の活躍は社会正義のためにやるものではない。経済であり、経営である」と経営層のコミットメントからスタートしている。三村氏はブランド強化について「一人ひとりの多様性を認め、公平なチャンスが与えられ、能力が発揮できる環境を整備することで、新たな発想やイノベーションが生まれる。そして従業員がエンゲージメントを向上させることでコーポレートブランドの価値が強化される」と話す。
イオン独自の「ダイ満足」活動の取り組みとは
イオンでは、グループ共通のDE&I推進ビジョンとして「ダイ満足」を掲げている。この言葉は、「ダイバーシティが生み出す、従業員と家族、お客さま、会社の満足」というフレーズの最初と最後の文字を掛け合わせた造語である。
活動を推進するために、決起集会でグループ会社の社長、推進責任者・担当者が集まり、「ダイ満足ビジョン」をコミットメント。まず、社長や経営者が旗を振ることが重要だと三村氏は明かす。そして年4回、グループ推進担当者間で悩みや成功事例を共有し、横断コミュニケーションを強化。また、管理職の意識・風土改革につなげるセミナーを実施し、全社一体の共通理解の醸成を図っている。これを階層別におこない、それぞれの立場で必要なポイントを学び、実践することが大事だと三村氏は述べる。成果として、グループ内のDE&I推進企業を表彰するアワードを開催し、表彰された企業事例はグループ政策発表会やグループ企業合同朝礼、社内報で共有されるという。
“ダイ満足”活動が育む多様性と持続的成長
この取り組みが12年継続できていることについて、三村氏は「社長の意思をコミットし、各グループ企業からも発信し続けているから」だと続ける。“ダイ満足”活動への参画を高め、維持していくために、ホールディングスではネットワーク強化を図っていると語る。
多様性を尊重する“ダイ満足”活動は、企業の持続的成長を支える基盤の一つとなっており、収益は6.3兆円(2013年)から10.1兆円(2024年)へ、従業員42万人から62万人(同年)へと拡大。「多様な価値観や能力、経験、属性を有する人材が相互に尊重しながら協働し、成果に応じて公正かつ公平に評価されることで、顧客に対してこれまでにない体験価値を提供でき、さらにブランドの成長へつながる」と締めくくった。
「内側から外側」を基盤としたブランド設計
産業編集センターの石原氏は、「ブランドが強い会社は、自社の理念をよく理解している。それが日々の仕事の意義やアクションにつながっていく」と振り返る。同社は、インターナルコミュニケーション一筋の企業。クライアントは約250社、媒体やイベント、調査コンサルを中心とした社内広報を得意としている。
ステークホルダーを含めたコミュニケーションの流れを見ていくと、まず企業のパーパスや理念、ビジョンが根底にあり、経営計画・人事、従業員の情熱や態度・判断がある。ここからエクスターナルとしてグループ・家族・アルムナイ、顧客・株主・取引先、生活者・社会へと広がっていく。「内側から外側へ」の設計が大事だという。
ストーリーで伝えるインターナル強化の事例
石原氏は、社会の価値観とコミュニケーションの変化について触れた。市場は利益追求型から共感志向に変わってきている。共感志向の今、企業と社会をつなぐのは「物語(ストーリー)」であり、これをいかに伝えられるかが重要だと話す。
同社のクライアントのイトーキを事例として挙げた。イトーキのエクスターナルは「明日の『働く』をデザインする」であるが、まずは従業員の「働く」をデザインしていくのが重要だと考えた。そこで、製造部門や営業部門など、これまで部門をまたいで共有されてこなかった仕事における生き様や思いを深堀りし、社内報で伝えていったのだ。さらには、社内報のコンテンツをそのまま広告に起用し、社内のストーリーを外向けにも発信した。
従業員のエンゲージメントが3年間で40%向上
インターナルを再構築したことにより、イトーキの従業員2000人のエンゲージメントが向上。3年前は40%ほどだったのが、2025年には82%まで上昇したという。また、社外に向けて発信した広告は日経広告賞を受賞し、社員個人のミッションステートメントを社外に発信したことは想定を超えた効果をもたらした。
石原氏は最後に、「企業や社員の思い、こだわりなど、バックストーリーをどう伝えるかが重要。ステークホルダーの共感の源泉を引き出し、一連のストーリーをうまく伝えることで、より有益なプロモーションが実現できる」と締めくくった。





