新時代の「総合広告会社」へ、鍵は“ソーシャル起点”
――まず、FOR YOUについてご紹介ください。
筧: FOR YOUは創業11期目を迎える、総合広告事業・芸能事務事務所事業、IP開発事業の3事業を柱とする会社です。私が入社した4年前は20人ほどの所帯でしたが、年内には100人近い規模になる拡大期にあります。代表の野田爽介が学生起業した会社ですが、経営陣には私や見市のように大手で経験を積んだメンバーも多く、ナショナルクライアントの方から直接大型の案件を手掛ける機会も増えてきました。
FOR YOU 執行役員CSO/CMO 筧将英(かけひ・まさひで) 氏
電通に新卒で入社し、14年間ストラテジックプランナーとして多数の大手クライアントからスタートアップのコミュニケーション戦略・ブランド戦略を手がける。FOR YOUではCSO/CMOとしてマーケティング戦略の立案から実行に関わり売上・利益の最大化と事業成長にコミットする。
元々培ってきたデジタル・ソーシャル領域の強みに加え、総合広告代理店出身の私がCSO/CMOとして、見市がCCOとして加わったことで、マス広告も含めた統合的なコミュニケーションを設計できる体制が整いました。私たちは昨今のソーシャル時代に適した「総合広告会社」です。
見市:私は2025年7月にCCOとして参画しました。私たちが掲げる「MASS from SOCIAL」というコンセプトは、まさに今の時代に必要な新しい価値軸を示すものだと考えています。
――「MASS from SOCIAL」の考え方について、詳しく教えてください。
見市: テレビCMだけで人を動かすのは難しい時代です。一人ひとりがメディアとなり、ソーシャル上で計り知れない影響力を持つようになった今、プランニングのあり方も根本から見直すべきだと考えています。
FOR YOU 執行役員CCO 見市沖(みいち・おき) 氏
電通クリエーティブ局、dentsu zeroを経て、2025年4月にクリエイティブブティック・株式会社本音を設立。クリエイティブディレクターとして活動する傍ら、7月にFOR YOU CCOに就任。「そのアイデアで、本当に人の心と体は動くのか?」この1点を大切に、ブランド戦略から、アウトプットづくりまで統合的に携わる。
従来のマスからトップダウンで情報を下ろしていく「トップダウンプランニング」ではなく、ソーシャルを起点として熱量を創り出し、それをマスまで波及させて世の中を動かす。この「ボトムアッププランニング」の発想こそが「MASS from SOCIAL」です。いかにソーシャルで熱量高く語られるブランドになるか。その熱量をどうマスに届けるか。いわば逆転の発想が、今の時代には不可欠なのだと考えています。
「みんなのもの」になっているほど拡散する
――それを実現するための具体的な方法論が、今回提唱されている「5E MODEL」ということですね。
見市: その通りです。従来のAIDMAやAISAS、SIPSといった行動モデルもそれぞれ時流を反映していたと思います。その上で、現代の、特にSNSを起点とした消費者の行動をより正確に捉えたモデルが求められていると考え、筧と議論を重ねて考案しました。
MASS form SOCIALを実現する「5E MODEL」
●Encounter:出会う
→語りたくなる熱源をSNSで作る(ブランデッドコンテンツ)
●Empathize:共感する
→共感できる声を生み出す(インフルエンサーや一般の方の投稿)
●Engage:信頼を深める
→信頼感を作る(PRによるメディア露出やTVCM)
●Enter:参加する
→行動への背中を押す(キャンペーン、イベント、インセンティブ)
●Express:共有する
→シェアしたくなる仕掛けを仕込む(キャンペーン、タグ)
見市:まず1つ目のEは「Encounter(出会う)」。マスから情報を与えられて「知る」のではなく、SNS上で誰かが熱狂している様子に「出くわす」ことから始まります。最近のSNSのアルゴリズムだと、自分が興味があるだろう事柄にタイムラインが最適化されて、コンテンツに接触します。
2つ目が「Empathize(共感する)」。その熱量ある語りに対して「わかる」「いいね」と共感するフェーズです。SNS上では友人はもちろん、一般の方やインフルエンサーが熱量高く語っていることに対して自分も興味を持ってしまうことが多いですよね。
3つ目は「Engage(信頼を深める)」。共感だけではすぐ購買には至らない方もいます。PR活動から生まれる記事やニュース、あるいはテレビCMなどでその情報に触れることで、パブリックなものであるという「信頼」が生まれ、購買へのハードルが下がります。
4つ目が「Enter(参加する)」。これは単なる「購買」だけではなく、盛り上がっている熱量の輪の中に「自分も入る」というニュアンスです。
そして最後のEが「Express(表現する)」。その輪に参加したからこそ、自分もその熱量を外に向けて表現し、共有する。それがまた誰かの新たな「Encounter」につながっていく。この循環こそが、今の時代の購買行動モデルの本質だと考えています。
――このモデルの有効性を裏付けるデータなどがあればご紹介ください。
筧: このモデルの仮説を検証するため、全国を対象として20~40代の一般の方を対象に調査を行いました。まず「Encounter(出会い)」について、「直近6カ月間に、SNS上の情報がきっかけで購入した経験がある」と答えた人は全体の41.9%にのぼり、若年層では50%を超えています。購買の起点が、もはやテレビだけでないことは明らかです。
筧:その最初の「熱源」との出会いは、どんなコンテンツ・投稿だったのか。男性は「公式アカウント」(22.3%)や「広告」(19.7%)などオフィシャルな情報源が上位でしたが、女性は「インフルエンサー/タレント」(27.0%)や「一般の人の投稿」(26.1%)の影響を強く受けていました。企業発信だけでなく、あらゆる人の声が熱源になり得るということです。
これはプランニングにおいても非常に重要な示唆です。単に「インフルエンサーとタイアップしましょう」で終わるのではなく、そこからいかにして一般の人々の投稿にまで広げていくか。その設計まで考える必要があるということです。
――SNSとマスの連携については、どのような示唆がありましたか。
筧: SNS上での接触回数が多いほど「Empathize(共感)」を深めることはもちろんですが、そこで重要になるのが「Engage(信頼)」のフェーズです。最初にSNSで出会って商品を購入した人に「テレビやニュースでも見かけたか」と聞いたところ、男性の70%以上、女性の40%以上が「見かけた」と回答しています。SNSで出会い、共感した後にマス情報に触れることで信頼感が生まれ、購買の後押しになっている。これも「MASS from SOCIAL」を象徴するデータです。
筧:そして、その複層的な接触は最後の「Express(表現)」、つまり拡散にも大きく影響します。調査では、テレビやニュースで商品を複数回見聞きした人は、購入後のSNSでの共有・推奨率が男性で86.3%、女性で67.2%と非常に高くなることが分かりました。つまり、商品が「みんなのもの」になっているほど、自分もその輪に入って表現したくなるということです。
毎年いまの時期に話題になるハンバーガーチェーンの「月見バーガー」が良い例です。みんながSNSに投稿していると、自分もその体験をシェアしたくなる。この「みんなのものになっている」という空気感が投稿へのハードルを下げ、さらなる熱を生む。この循環をいかに設計するかが、これからのプランニングの鍵だと考えています。
人間の感情を代理する「THE PEOPLE AGENCY.」へ
――従来の購買行動モデルと「5E MODEL」が最も違う点はどこでしょうか。
見市:大きな違いは2つあります。1つ目は、起点となる「Encounter(出会い)」の考え方です。情報やモノに満たされた現代で、多くの人は「これが欲しい」という強い欲望が常にあるわけではなく、いわば“欲望の迷子”になっています。そんな時に心を動かすのは、企業から与えられる情報ではなく、誰かが熱狂している「熱源」です。「なんだか分からないけど、すごく盛り上がっているな」と気になる。この“気になる”という感情こそがすべての始まりだと考えています。だからこそ、プランニングの最初に、この「熱源」をどうつくるかが何よりも重要になります。
もう1つは、「検索行動を前提としていない」点です。今の私たちの情報収集は必ずしも検索から始まるとは限りませんよね。むしろアルゴリズムによって次々と情報がレコメンドされる。この5Eモデルの流れに「確かに、今の自分の買い方ってそうだよね」と共感していただけるような、クライアント様やエージェンシー様とこれからご一緒していきたいです。
――FOR YOUは、この「5E MODEL」を基に、どのような価値を提供していくのでしょうか。
見市:「THE PEOPLE AGENCY.」という理念に集約されます。代理店の価値は、クライアントの内側に入るコンサルタントとは違い、クライアントの“外側”にいることです。常に「世の中視点」「人間視点」でクライアントの価値を翻訳し、社会に橋渡しをする。私たちはクライアントの代理店でありながら、本当は世の中の、そして人間の感情の代理店でなければならない。この「5E MODEL」のように、徹底した人間視点で統合的にコミュニケーションを作るエージェンシーでありたいですね。
筧:多くのクライアントの担当者と会話させていただくと、どの企業も人手が足りないこと、またもっと事業に向き合ってくれるパートナーを探されていることが多く、細分化された専門エージェンシーと複数向き合うことに限界を感じています。「まるっと一貫して任せられるパートナー」へのニーズは非常に大きいと考えています。
AIの時代になり、私たち自身も一人が複数の役割を担えるようになりました。ソーシャルとマスを分断せず、リアルイベントも含めて統合的にプランニングできることこそ、今の時代の「総合広告代理店」の価値だと考えています。

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