プラントや環境設備の建設、水素製造装置の製造などを手掛ける三菱化工機が、7月3日に発足させた「MKK PROJECT by 三菱化工機」が本格始動している。社会課題の解決と新たなビジネスモデルの創出を目指すプロジェクトであり、その推進役として新会社「MKKi」を立ち上げた。同社が培ってきた分離・ろ過技術や水素製造技術などを応用し、本社と製造拠点を置く川崎市を皮切りに循環型エネルギー社会の実現を目指す。
単なる新規ビジネスにとどまらず、日本の高度経済成長を支えてきた工業地帯のある川崎市を、技術的なエネルギーだけでなく、文化や人が持つ「エネルギー」が集約された「Energy創発特区」へと成長させるという「夢」を掲げる。将来的には「川崎発の環境技術企業」というブランドを確立し、グローバル展開を通じて川崎の名を世界に広げる考えだ。
三菱化工機の取り組みと目指す社会のあり方について、企画部の主席であり、MKKiの取締役CMOを兼任する山田宏一氏と、プロジェクトの立ち上げから伴走する読売広告社エグゼクティブクリエイティブディレクターの外山毅氏に聞いた。
2050年に向けて新事業の創出を目指す
━━プロジェクト発足の経緯を教えてください。
山田:当社が2021年11月に策定した「三菱化工機グループ2050経営ビジョン」のさらなる推進を目的に立ち上げたプロジェクトです。創立100周年を迎える2035年に、事業規模を当時の2倍となる1000億円に拡大する計画で、さらに売上の半分は新規事業領域で得ることを目指しています。既存領域の売上を堅守しつつ、市場拡大が見込まれるGXをはじめとした戦略的事業領域を定め、全社的なポートフォリオを進化させつつ社会課題の解決と成長の具現化を図るものです。
三菱化工機 企画部主席 兼 MKKi 取締役CMO 山田宏一 氏
このような背景を受け、今年7月にプロジェクトがスタートしました。とはいえ、新しいことに挑戦するのは容易ではありません。外部への情報発信と同じかそれ以上に、インナーブランディングを含めた社内の意識改革は重要なテーマでした。そのため、本プロジェクト発足前から、各部門の代表者が集まる委員会形式で様々な検討を進めてきました。
この取り組みを進めるため、複数の会社に相談しました。その中で読売広告社(YOMIKO)の提案が素晴らしく、パートナーとして一緒に進めています。
外山:オリエンテーションを受けたのは昨年12月でした。一般的な企業のブランディングに関するオリエンと比べて、三菱化工機は「社会を良くしたい」という「夢」が詰まっていると感じました。目的を達成した暁にはプロジェクトや新会社を解散すると明記されており、その意気込みが印象的でした。オリエンテーションを受け、まず技術的な部分を含めて事業を深く理解することに特に時間をかけました。
読売広告社 統合クリエイティブセンター エグゼクティブクリエイティブディレクター 外山毅 氏
私自身、クライアントの経営課題の解決や事業支援を手がける社内クリエイティブブティックをYOMIKOに立ち上げていました。広告会社のクリエイティブも広告制作以外の領域にも拡大していく必要性を感じていたからです。プロジェクトの話を伺い、ぜひ参加したいと思いました。
「川崎発の環境技術企業」のブランド確立へ
━━どのような将来像を描いていますか。
山田:経営ビジョンの最終年度となる2050年までを5年、10年、10年と3つの期間に区切り、フェーズごとの施策と目標を設定しました。最初の5年間は「川崎発の環境技術企業」というブランドを確立することを目指しています。自社の社名認知度には課題がある一方で、私たちの発祥の地である「川崎」という地域には強いブランド力があります。日本の高度成長を支えてきた工業地帯を代表する川崎は、公害などがクローズアップされた歴史がある一方で、その解決に大きく貢献した実績もあります。企業と地域のブランドを融合させ、世界に通用し得る新しいブランドを生み出せないかと考えました。
外山:川崎は多様なストリートカルチャーでも有名ですよね。プロジェクトに集まる人材もまた多様で、まさに川崎の縮図のような企業だと思います。
そのため「MKK PROJECT by 三菱化工機」のコンセプトムービーでは、登場人物をすべて川崎にゆかりのある人々にお願いしました。当社も川崎に集まる多様性の一部であることを表現しています。
山田:2030年に川崎で開業を目指している「川崎新!アリーナシティ・プロジェクト」とも協業し、この5年間で培ったPoC(実証実験)の成果や技術をアリーナにインストールすることを目指しています。Bリーグに所属するプロバスケットボールクラブ「川崎ブレイブサンダース」の本拠地となるだけではなく、音楽やアートなど様々なジャンルのエンタメがあつまるアリーナです。
そこに、私たちの環境対応・創エネルギー技術を活用することを目指しています。
こうした取り組みのプロセスも発信していくことによって「川崎発」というブランドを形成し、将来的には「川崎発のエネルギー技術」として海外へ発信していきたいと考えています。
━━広報面での工夫について教えてください。
外山:社員の皆さんの熱意と、コア技術である「分離」を組み合わせたストーリーを伝えていきたいと考えました。「MKK」のロゴは分離によって純度を高め、結合によって新たな価値を生み出すという三菱化工機のコア技術を象徴しています。
プロジェクト開始時にJR川崎駅構内に掲出した広告
新ビジネスによって事業が多角化したとしても、三菱化工機が従来から培ってきた技術企業としての原点も忘れてはいけないと考えました。そこで、ブランディングを支援するにあたり作成したプロジェクトのブック(冊子)は、企業の新たな挑戦としてのフロンティアマインドを植え付けつつも、技術者の視点で原点にいつでも立ち戻れるような内容を意識しました。結果、ブックとしてはかなり尖った仕上がりになったと思います。
52ページにわたるプロジェクトブックを全社員に配布した
化学工業技術の会社が新規事業を展開する前例は多くありませんが、技術者には共通して「世の中を良くしたい」という思いがあると考えています。ブックには、その原点へのリスペクトを反映させ、最終的には原点に立ち返ることの重要性を示しています。
山田:社内向け広報としては、社長自らが数ヶ月をかけて中期経営計画の説明を全社員に行っており、そこに同行して本プロジェクトの意図や目標などを説明しているほか、プロジェクトの進行やイベントなどの情報をイントラなどで発信しています。
企業や大学との共創を積極的に推進
━━現在進めているプロジェクトの実例を教えてください。
山田:プロジェクトの一例として、「川崎ブレイブサンダース」とその親会社のDeNAが川崎市の委託を受けて運営するバスケやスケボーなどができる施設「カワサキ文化公園」に今秋、水素の給電システムを設置する予定です。公園の一部電力やイベントなどでの電力供給といった用途開拓に加え、製造から運搬・回収を含めた水素のサプライチェーン構築の実証実験を行います。
さらに、上智大学と連携し、「フード×エネルギーのサーキュラーエコノミー化」をテーマとした連携講座が9月末からスタートしています。これは、日本の農作物や加工品の再生産価格が海外に比べて低いというギャップを解消するため、サーキュラーエコノミーの研究を進めるものです。
そのほか、川崎で様々なパートナーを発掘していく予定です。従来の競合企業との連携も視野に入れており、そのための新会社でもあります。
プロジェクトの統一ビジュアルを作成した。グッズはイベントなどで活用する
いずれ、三菱化工機自体に長期的視点を持ったイノベーションのマインドセットがあらためて定着した時点で、この新会社とプロジェクトは解散する予定です。常時5~6のプロジェクトを進め、形になったものから順次三菱化工機に引き継ぐというサイクルを繰り返していきます。
━━プロジェクトへの期待感をお聞かせください。
外山:中小企業の中には、新規事業を実施する際に「何から手を付ければよいか分からない」という悩みを抱える企業が多くあります。一方で大企業では経営層と現場との間に隔たりが生じているケースも少なくありません。そうした企業のために、課題を見つけることがクリエイターの仕事だと考えています。アウトプットを急ぐのではなく、まず課題にどう向き合うかというインプットの時間を大切にするべきだとチームメンバーにも伝えています。
今回のプロジェクトは多くの技術者が共創して中長期的視点で取り組むという点において、良いモデルケースになると期待しています。
山田:水素をはじめとしたクリーンエネルギー市場は、インフラ整備や法規制などの課題もありますが、脱化石燃料の流れで着実に成長していく分野です。特に都市部で実証する事例はまだ少ないため、リアルな実証実験を進めていきたいと考えています。
お問い合わせ
三菱化工機株式会社
企画管理統括本部 企画部 広報・CSR課
mailto:mkki@kakoki.co.jp
三菱化工機 公式Webサイト https://www.kakoki.co.jp/
MKKプロジェクトWebサイト https://www.kakoki.co.jp/mkkpj/












