リアルとオンラインを融合し「旅」を通じた体験価値の向上を目指すJTB

「交流創造事業」を事業ドメインとし、従来の旅行会社の枠組みを超えて旅という体験を通じた価値の提供を推進するJTB。コロナ禍を経て人の移動が再び活発化する中で、顧客との接点をいかにとらえ、事業に反映しているのか。「データ×マーケティング」をキーワードに、マーケティング支援などを行うヴァリューズの後藤賢治副社長が、JTB取締役専務執行役員ツーリズム事業本部長の西松千鶴子氏に聞く。
写真 人物 JTB 取締役 専務執行役員 ツーリズム事業本部長 西松千鶴子氏、ヴァリューズ 取締役副社長 後藤賢治氏

左から)JTB 取締役 専務執行役員 ツーリズム事業本部長 西松千鶴子氏、ヴァリューズ 取締役副社長 後藤賢治氏

オンラインに偏りすぎないリアルとの融合を意識

後藤:JTBさんは今、「交流創造事業」を事業ドメインにされています。

西松:当社は2018年のグループ全社の経営体制再編を機に、事業ドメインを「交流創造事業」と定めました。これは、人と人、人と地域、人と組織をつなぎ、出会いと共感をサステナブルにつくり続けることで、交流を通じ、価値を提供していきたいという想いを表現しています。

後藤:西松さんのマーケティングに対する考えをお聞かせください。

西松:私個人としては、事業戦略とマーケティング戦略は切っても切り離せないものだと考えています。私たちの事業のベースはCX、つまりお客さまの体験価値を向上することによって成立しています。お客さまといっても、法人と個人の違いもありますし、法人でも企業や学校法人、自治体、個人ではリアルとオンラインで顧客体験がそれぞれ変わってきます。そこにある交流を通じた顧客体験がお客さまにとってより良いものになるように、効果検証を繰り返し、PDCAを回してきました。

そのなかで感じたのは、当社の事業モデルでは、デジタルの接点が弱いという課題です。

そこで、デジタルの接点を増やすべく、アプリなどを用いて「旅マエ」から接点を持つことにグローバルで取り組んできました。ただ、CXという観点で言うと、オンラインに偏りすぎることなく、リアルとの融合を意識することが重要だと考えています。

こうした考えが結実した一例が「JTBリモートコンシェルジュ」です。今後さらに、私たちグループがさまざまなチャネルで蓄積しているデータを活用し、データドリブンなPDCAを強化しなければならないとも感じています。旅行というと非日常的な側面がありますが、日常の中にも接点を見つけて、良い体験をしていただけるようなことも考えており、人というアセットとデジタルを組み合わせた領域を担うために事業推進・顧客戦略チームを設置しました。

後藤:旅行のオンライン予約は、コンバージョンに至るまでの離脱率が高い印象を持っています。JTBさんではオンラインでどこまで完結させることを目指していますか。

西松:一概には言えないと思います。お客さまのデジタルリテラシーも含めて求めるサービスは変わってくると考えるからです。そこで可能な限り、お客さまのニーズに合わせてリアルとオンラインを行き来できるような設計を意識しています。

例えばサイトでお気に入り登録した情報が店舗でも把握できたり、店舗で相談した内容を持ち帰り家族と相談してオンラインで予約決済できたり。お客さまの体験を中心に据え、ニーズに応じて自在にサービスを活用いただける仕組みの構築を進めています。

後藤:コロナ禍を経て「旅行」の価値が再評価されているように感じます。実際に消費者の価値観の変化を感じる事象は起きていますか。

西松:多様化がますます加速していることを感じています。旅行の目的も、従来は「目的地に行く」ことで大半が達成されていたところがありました。しかし近年は、旅先で何をするのか、その「体験」によって何を得たいのかなど、お客さまが重視されることや旅行目的、旅に求めることが多様化しています。

現在、日本は国を挙げてインバウンドで観光立国を目指す動きがありますが、一方でオーバーツーリズムが問題になっています。旅は、地域の資源を活用させていただくので、持続可能な観光地づくりという観点からも、旅行者だけではなく、そこに住む人々の視点で観光を考えていく必要があると考えています。私たちは交流を創造する立場として、旅行者と地域が共感し合い、持続可能な交流を生み出していくことが大事であると考えています。

後藤:ヴァリューズでは広島県観光連盟の支援をしていますが、広島への旅行をリピートしてもらうためには何ができるのかを知るために、一部旅行者の位置情報を取得し、分析しています。個人情報の問題もあるので難しい面もありますが、地方の自治体や観光団体側でも交流を創造するためにできることはありそうです。

顧客・社員の体験を共有しオンオフ接点で表現していく

後藤:先ほど、消費者の価値観が多様化していると伺いました。そうした移りゆくインサイトをどのように理解し、MDに落とし込んでいるのでしょうか。

西松:これは当社の代表取締役社長執行役員の山北も話していることなのですが、“自分自身も体験しようとすること”が重要です。

もうひとつはお客さまの体験も取り込んでいくこと。さらには社員同士が体験を共有することも大事です。そして、共有した体験を集約して得た知見を、リアル、オンラインの接点で表現していく。ここに私たちのユニークネスである、日本全国47DMC(ディスティネーション・マネジメント・カンパニー)のネットワークを生かし、その土地や地域の声を聴き、各地に根ざしたサービスを提供しています。

後藤:最後に、今後の展望をお聞かせください。どのような顧客理解をベースにして魅力的な体験を提供していきたいとお考えですか。

西松:大事にしたいのは情緒的価値をどう生み出していくかです。旅行を通じてお客さまがこれまで経験したことがない体験をすることで、考え方や、大きくいえば人生にもプラスの影響を与えるようなことを創っていきたいです。旅行先の土地や歴史、文化に触れ、そこで出会った人との交流から共感が生まれ、自然と「またここを訪れよう」という気持ちにつながる。このサイクルこそが、私たちが目指す交流創造の本質です。顧客接点をリアルとオンラインで融合し、同時にそこから得た洞察を生かし、特別な体験ができるコンテンツの開発を推進していきます。この取り組みが、事業の成長だけでなく、観光産業全体の持続的な発展に貢献するものと確信しています。

編集協力:ヴァリューズ

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