広告の旅人・杉山恒太郎さんの「THINK」な旅~『THINK PUBLIC』によせて(なかじましんや)

気づいてませんでした!恒太郎さんの熱い思い。

30年前に演出させていただいた公共広告「人魚」のTVCM。スープの残りやら天ぷらに使った油やらを家庭のシンクに流して捨てることで川や海が富栄養化して生き物たちが住めなくなる。海に住む人魚も然り。このことをみんなに気づいてもらうために、スープの残りを頭から浴びせられた人魚がとても悲しい表情で僕たちを見つめる、というちょっとショッキングな杉山恒太郎さんのアイデア。人魚役の女の子にスープを模した液体を実際に浴びせる、という撮影はちょっと心が痛むものでした。

この企画。実は世界の公共広告の洗礼にショックを受けたばっかりの恒太郎さんが「なんとか世界に日本の実力を示そう!」というリベンジの一心から生まれたもの。そのことを、この本を読んで僕は初めて知りました。1992年、あの人魚のCMが出発点となって日本の広告界で不動の地位を築いてきていた恒太郎さんの新たな旅路が始まったのです。

この本は、刻一刻と変わりゆく公共広告を目撃するなかで、変わりゆく世界を体感していった恒太郎さんの旅の記録とも言えるのではないでしょうか。「なかなか伝わらない」というコミュニケーションの難しさを知る恒太郎さんだからこそ語れる一つのリアルな現代史だと思いました。

その旅を通して恒太郎さんは「公共広告は『広告のための広告』である」という見方にたどり着きます。これは「広告の力」を信じ「広告の力」を社会に示したいという広告への強い愛を抱いておられる杉山恒太郎さんだからこそ見出せた境地なのだと思います。情報環境が激変し、あらためて「広告の力」が問われている今、この本の投じる一石はなかなか大きなものがあるんじゃないかな、と思います。

今も「なかなかの伝わらない」世界をのたうちまわって生きている僕がこのタイミングで出会うべくして出会った本だったのかもしれません。

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なかじましんや

CMディレクター

1959年福岡県生まれ。1982年武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科卒業後、東北新社入社。83年CMディレクターとしてデビュー。主な仕事に、日清食品カップヌードル、サントリー伊右衛門、リクルートAirPAY「オダギリジョー」シリーズなど。「カンヌ国際広告祭(現カンヌライオンズ)」グランプリ、ACCグランプリ「米IBA」最高賞ほか受賞多数。
株式会社東北新社代表取締役社長を2022年6月に退任後「なかじましんやオフィス合同会社」設立。CMディレクター、クリエイティブディレクターとして活躍する一方、なかじましんやオフィスとして後進の育成にも力を入れており、宣伝会議のコピーライター養成講座やCMプランニング講座等で講師を務めている。東京ADC会員、武蔵野美術大学客員教授。

『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』

杉山恒太郎(著) 河尻亨一(編集協力)
定価:2200円(本体2000円+税)
ISBN 978-4-88335-628-7
 
小学館「ピッカピカの1年生」、サントリーローヤル「ランボー」などで国内外の広告賞を多数受賞し、世界最大級の広告祭・カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの国際審査員を3度務めるなど、国内外で活躍するクリエイター 杉山恒太郎氏。
国内外のクリエイティブを熟知し、考察し続けている杉山氏による新刊『THINK PUBLIC 世界のクリエイティブは公共の課題に答えを出す』で取り上げる広告は、一般的に「公共広告」と呼ばれているものが多くあります。「公共広告」と聞くと、非営利団体や行政、国連関連組織によるキャンペーンを想像する方が多いかもしれません。しかし、本書では企業による公共サービス型の事例も織り交ぜながら、さらに一歩踏み込み、氏はこれからの広告のあるべき姿とし「THINK PUBLIC」を提言します。
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宣伝会議 書籍編集部
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宣伝会議書籍編集部では、広告・マーケティング・クリエイティブ分野に特化した専門書籍の企画・編集を担当。業界の第一線で活躍する実務家や研究者と連携し、実践的かつ最先端の知見を読者に届けています。

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