「楽しい」から生まれる自然な行動変容
SDGs対策や環境施策を実施しても、思うような効果が得られないばかりか、顧客から「押しつけがましい」と受け取られることも少なくない。そうした中で、一定の成功を収めているのはファミリーマートの食品ロス削減施策「涙目シール」だ。おむすびのキャラクターが「たすけてください」と涙目で訴えるデザインの値下げシールであり、今年3月から全国の店舗で導入。導入前と比較して購入率が10ポイント上昇した店舗もあり、高い効果を上げている。社会全体で食品ロス削減に取り組むため、10月22日からはデザインをフリー素材化して提供している。
フリー素材化してバリエーションも増えた「涙目シール」
顧客からは「こんな表情で見つめられたら、思わず助けたくなる」といった声が寄せられ、値引きによる経済的効果よりも「助けたいから」という感情的理由による購入動機が目立った。なぜこのシールが多くの人の心を動かしたのか。行動経済学の専門家である滋賀県立大学人間文化学部生活デザイン学科の山田歩准教授は、その成功要因となった「5つの要素」について解説した。
山田准教授は、この取り組みを顧客の感情に訴え、行動変容を促す「ナッジ型コミュニケーション」と位置づける。「ナッジ」とは、罰則や強制、あるいは「1万円あげます」といった経済的報酬を与えるのではなく、人が感情に流されやすいという心理的傾向を応用して自発的な行動を促す手法のことだ。
この「涙目シール」には、人を動かす複数の要素が見られるという。1つ目は「EASY(簡単に)」だ。購入するだけで食品ロス削減に貢献できる点が、余計な手間をかけず気軽に行動したいという消費者心理に合致している。
2つ目は「ATTRACTIVE(印象的に)」。涙目のおむすびのシールが、視覚的に強い印象を与えており、買い物客の感情を喚起するトリガーとして機能しているとみている。
ファミリーマートでは従来から「ファミマのエコ割」を実施しているが、これは損得勘定に基づく訴求。一方、「涙目シール」は感情に訴える点で対照的であり、「買ってあげなきゃと思って購入した」という顧客の声も寄せられている。
3つ目は「SOCIAL(社会的に)」。山田准教授は「人間は社会的な動物で、他者との関係性によって心が動かされる」と指摘。キャラクターが「助けてください」と訴えることで、顧客の中に「助けよう」という社会的感情が喚起され、架空のやり取りでありながら「助けたい・助けてほしい」という関係性が生まれているという。
4つ目は「TIMELY(タイムリーに)」。通常、ポスターなどで「食品ロス削減にご協力ください」と呼びかけても、即座に行動につながりにくい。一方、「涙目シール」は、消費期限が迫ったタイミングで貼られるため、購買行動が必要な瞬間に働きかける点が特徴だ。
