生成AIの進化の中で、マーケティングやマーケティングリサーチをどう変えるべきかという問いに対するヒントが、『新版「欲しい」の本質』には示されている。ここでは2点に注目したい。ひとつは、AIが進化する今だからこそ「人を動かす理由」を読み解く力――“インサイト”の理解がより重要になるということだ。もうひとつはマーケティング分析における生成AI活用の具体的なヒントである。
1.インサイトの「構造的理解」の実践的指針になる
今回の新版を見ると、「インサイトの定義見直し」「インサイトからターゲットを定める」「AI活用」など、最新の知見を踏まえ大幅な刷新がなされている。著者らはインサイトを「人を動かす無自覚な欲求」と再定義し、それを導く情報として、シーン、ドライバー、エモーション、バックグラウンドの4要素で整理している。この構造的理解は、科学的に思考するマーケターにとって極めて実践的な指針であり、分析を「数字の説明」から「意味の発見」へと導く。
大松孝弘、波田浩之著『新版「欲しい」の本質 人を動かす無自覚な欲求「インサイト」の見つけ方』
私自身、ソフトバンクでマーケティング分析関連の部署をマネジメントする立場として、チームメンバーに常に伝えているのは「購買や評価を変える決定的な要因を探せ」ということだ。その際には、個々人の置かれた立場や思考(バックグラウンド)、状況(シーン)を捉えることを重視している。例えば、同じ顧客であっても、朝の通勤途中に立ち寄るカフェと、休日に友人と訪れるカフェでは求める価値がまったく異なる。そこに加わる直接的な体験や刺激(ドライバー)が、感情(エモーション)を生み出し、行動の変化を引き起こす。このデータから文脈を読み解く力は、AI時代のマーケターに一層求められるスキルだと感じている。
また私は、事前のセグメンテーションを重視しない。なぜなら事前の区分けは傾向を示すにとどまり、本質を見誤ることのほうが多いからだ。さらに、リサーチで得られた「綺麗ごと」の理由をそのまま受け取らないようにしている。人の行動は矛盾や惰性から生まれることが多いため、行動とその背景をとことん深掘りすることを心がけている。本書では、そうしたポイントを「インサイトからターゲットを定める」「人の欲望は天使と悪魔の両面で捉える」として体系的に説明しており、多くの“リサーチャー”や“生成AIのアウトプット”が陥りがちな“前提ありきの顧客理解”からの脱却を促してくれる。
