今回は少し趣向を変えて、筆者自身が制作スタッフとして関わった案件を題材にします。
バンダイナムコエクスペリエンスのオリジナルIP「ポラポリポスポ」。そのアーティスト「WAKAZO」の新曲『励ましの歌』ミュージックビデオ(MV)で、演奏シーンの合間に挿入される“旅の思い出”カットに生成AIが使われました。
AIを使用した“旅の思い出”カット。
このプロジェクトで、筆者は生成AI活用を含めたテクニカルディレクションを担当しています。どの範囲にAIを使うのか、どのようなワークフローに組み込むのか、そして何より「ファンに対してどう説明するのか」。企業側・制作側・ファン側、それぞれの視点がぶつかるポイントを、かなり間近で見てきた案件です。
本稿では、その経験を踏まえながら、これからのIPホルダーと生成AIとの付き合い方を整理してみたいと思います。
「どこにAIを使ったか」を、最初から言葉にする
実際に配信されたプレスリリース。
まずは、バンダイナムコエクスペリエンスから出されたニュースリリースの構成が象徴的です。
リリースには、
「AIを活用したコンテンツ制作を始めます。第一弾として『ポラポリポスポ』のMV制作の一部に生成AIを活用」
という宣言がはっきりと書かれています。
加えて、どこにどう使ったかも具体的です。
プレスリリースからの抜粋。
・対象:CGキャラクターバンド「WAKAZO」の新曲『励ましの歌』MV
・範囲:演奏シーンの合間に挿入されるワンカット素材(旅の思い出写真的なカット)
・表現:3Dの実写的背景と2DのCGキャラクターを融合させた「2.5次元キャラクターイラスト」
つまり、
「作品のどの部分にAIが関わっているか」を最初から明示している
わけです。
制作側の立場から正直に書くと、今回の「AI活用」は、黙っていればおそらく多くの人には気づかれない種類のものです。それでもあえてリリースで明言したのは、AIは“ごまかすための道具”ではなく、表現の一部としてきちんと説明する対象である、というスタンスを、会社として打ち出したかったからだと感じています。




