大手ECモールを主戦場にEC売上50億円を築いた松屋フーズ。同社が新たな挑戦の舞台に選んだ「TikTok Shop」で、初月からROI 8〜9倍という成果を上げている。クリエイターエコノミーを最大限に活用し、広告を最適化する戦略について、松屋フーズの吉留亜優佳氏、ECパートナーのGastroduce Japanの若松友貴氏、TikTok for Business Japanの金沢佳恵氏、TikTok Shop Japanの半田敏一氏に聞いた。
EC売上50億円の松屋フーズが、TikTok Shopに進出
松屋フーズがEC事業を立ち上げたのは2004年のこと。当初は数百万円規模だった売上は、コロナ禍の巣ごもり需要を追い風に急拡大。2021年度には約35億円、2024年度には約50億円規模へと成長を遂げた。この成長を支援してきたのが、飲食特化のECコンサルティングを手がけるGastroduce(ガストロデュース)Japanだ。その“勝ち筋”の確立について、代表取締役の若松友貴氏はこう振り返る。
「2017年のサポート開始当初、某大手ECモールでの月商は500〜1000万円ほどでした。そこからそのECモールの特性を徹底的に分析。イベント時に、『牛めしの具』30食セットにアクセスを集中させてランキング上位を取る戦略で、4カ月で月商6000万円を達成。この“勝ち筋”を他モールにも横展開させていきました」
松屋フーズとGastroduce Japanは2024年5月に合弁会社「モールハック」を設立。商品開発からECでの販売戦略、物流までを一気通貫で行う体制を構築するなど、盤石な成長基盤を築き上げてきた。一方で、コロナ禍が明けEC市場全体が“踊り場”を迎えることとなる。
松屋フーズの吉留亜優佳氏は「コロナ禍を機に、お客様は40〜50代の男性中心から、子育て世代の女性まで拡大。『お店の味をおうちで』というニーズに応え、新商品開発にも注力してきました。しかし、既存モールだけではこれ以上の成長を描きにくいと感じていました」と語る。
そんな中、次なる挑戦の舞台として選んだのが、「TikTok Shop」だ。
「“発見型コマース”という新しい領域に、純粋にワクワクしました。クリエイターさんの調理動画などを通じて、これまでECサイトや広告では伝えきれなかった商品の魅力やストーリーを新しいお客様に届けられる。食品と動画の相性は絶対に良いはずだと、すぐに挑戦を決めました」(吉留氏)
松屋フーズ 戦略事業部 外販グループ マネジャー 吉留亜優佳 氏
TikTok Shopと食品ECとの相性に確信
ショート動画やLIVE配信を通じて商品を“発見”し、そのままアプリ内で購入まで完結する。この「ディスカバリーEコマース」と呼ばれる体験は、2021年以降アメリカや東南アジアなどで急速に拡大。日本でも2025年6月から「TikTok Shop」としてサービスが始まった。
TikTok Shop Japanの半田敏一氏は、その魅力についてこう語る。
「TikTok Shopは、動画でバズが生まれれば、売上が直角的に伸びる可能性を秘めています。これはTikTok Shopならではの特性です。8月末に冷凍食品カテゴリーが解禁されて以降、松屋フーズ様をはじめ多くの食品関連企業様の参入が相次ぎ、プラットフォーム全体が活性化しています」
TikTok Shop Japan, Global E-commerce, Director, Multi-Category 半田敏一 氏
この好機を捉え、松屋フーズはGastroduce Japanとともに、冷凍便解禁と同時に本格展開を決定。10月6日から販売を開始した。
「海外での盛況ぶりは聞いていましたし、テレビショッピングのように食品と動画コマースの相性は良いと確信していました。EC市場が成熟期に入る中で、この挑戦に賭けてみようと。冷凍便が解禁された瞬間に、『松屋さん、最速でいきましょう』とご提案しました」(若松氏)
「クリエイター活用」と「広告の最適化」でROI8~9倍
TikTok Shopでの施策は、開始初月から広告ソリューション「GMV Max」を活用し、ROI 8〜9倍を継続的に達成。月末にはROI が10倍を超える日もあったという。その成功の裏には、3つの戦略があった。1つ目は「SKUの最適化」だ。
「TikTok Shopでは、売れるSKUと企画設計が売上の7割を決めると考えています。そこで、他モールでも実績のある『牛めし』の10〜30食セットという“定番”と、クリエイターさんが紹介しやすい3〜4種入りのバラエティ福袋という“企画もの”の2軸で商品を構成しました」(吉留氏)
2つ目が、100人を超える「クリエイターとのアフィリエイト連携」だ。
「まず、私たちのクリエイターネットワークを活かし、一気に150本ほどのUGC動画を制作・投稿しました。そこから成果の高い“当たり動画”に広告を投下し、再生数を伸ばす戦略を取りました」(若松氏)
クリエイター動画例(左から、もがみ【美容と飲食の経営者】さん、みーこ⌇子どもがいても整う暮らしさん)
@mogami41 【公式】松屋全部盛り30個(プレミアム仕様牛飯✖︎10豚メシ✖︎10オリジナルカレー✖︎10)冷凍でストックしておけば、レンジか湯煎でいつでも店の味が楽しめる。甘味料・保存料不使用で、赤身と脂身のバランスが最高だ。多食セットなら1食あたり200円台とコスパ最強。非常食にも最適だ。#メロ秋投稿キャンペーン #松屋 #飯テロ #牛丼 #カレー ♬ 奇妙で妖しい レトロなエレクトロジャズ – Ponetto
この戦略を支えるのが、TikTok Shopが提供する「アフィリエイトセンター」だ。販売者とクリエイターのコラボを促すプラットフォームで、 TikTok for Businessの調査によると、東南アジアや米国では、GMV(流通取引総額)の9割以上がこのアフィリエイト経由で生まれているという。
TikTok for Business Japanの金沢佳恵氏は「アフィリエイトセンターでは、販売者様が商品サンプルを提供し、広くクリエイターを公募する『オープンコラボレーション』と、特定の方に直接オファーする『ターゲットコラボレーション』が可能です。成果連動でコミッション率を柔軟に設定できるため、リスクを抑えながら効率的にUGCを増やすことができます。何より、多様なクリエイターさんによる第三者目線の『おすすめ』は、客観的な視点や新たな発見によるレビューが生まれやすい」と語る。
そして3つ目が、広告ソリューション「GMV Max」の戦略的活用だ。これは、ROI目標に基づき、AIがGMVを最大化するよう配信を全自動で最適化する機能。アフィリエイトセンターで生まれたクリエイター動画を、そのまま広告クリエイティブとして活用できる。
「従来のインフルエンサーマーケティングでは、どのクリエイターがどれだけ売上に貢献したかを把握するのは困難でした。しかしTikTok Shopでは、全てが可視化され、PDCAを高速で回せます。一度、決済の連携遅延で誤って広告を止めてしまったことがあるのですが、その瞬間に売上が半減し、広告がいかに効いていたかを痛感しましたね(笑)」(若松氏)
Gastroduce Japan 代表取締役社長 若松友貴 氏
LIVE配信を活用したEコマースという次なる挑戦へ
この成功は、クリエイターが成果を出しやすい環境を整える運用ノウハウも一因だ。
「私たちはフォロワー数にかかわらず、まず幅広いクリエイターに動画制作をお願いしています。その上で、1つの商品サンプルに対し最低3本の動画を異なる切り口で制作してもらうよう依頼しています。1本の“当たり”に賭けるのではなく、数多く試す中でヒットの確率を上げる考え方です」(若松氏)
この運用方針は、GMV Maxの効果を最大化する上でも有効だと金沢氏は語る。
「GMV Maxは、投入されたクリエイティブを自動的にテストしながら運用し、ポテンシャルの高いものに予算を集中させる仕組みです。より高い精度で配信するためには、できるだけ多様なクリエイティブをご活用いただくことを推奨しています。目安として、1SKUあたり最低5本、週に1回は新しい動画を追加いただくことで、より成果につながりやすくなります。自社だけでこの本数を制作するのは大変ですが、アフィリエイトセンターとの組み合わせで効率的に実現できます」
TikTok for Business Japan, Global Business Solutions, Client Partner, TikTok Shop 金沢佳恵 氏
日本国内の月間利用者数は4200万人を超え(※)、約3人に1人が利用するプラットフォームへと成長しているTikTok。今回の手応えを踏まえ、松屋フーズはショッピングLIVEを活用したEコマースの本格活用も見据えている。
※TikTok調べ。ユーザー数はTikTokとTikTok Liteの合計(重複を除く)。
「先日、初のLIVE配信では私自身も出演しました。トライ&エラーを重ねてノウハウを貯めているところです。お客様とリアルタイムでコミュニケーションを取りながら、『こんなアレンジレシピもありますよ』とご紹介できるのは、LIVEならではの魅力。視聴者の皆様のリアルな反応は、次の商品開発のヒントにもなります」(吉留氏)
「拡散力のある『ショート動画』と、リアルタイムでの訴求が可能で瞬発力を持つ『LIVE』では、ユーザーとの入口が異なる。この両輪を回していただくことが、お客様とのタッチポイントを最大化する鍵だと考えています。LIVE配信の効果をさらに高める『LIVE GMV Max』といったソリューションもご用意していますので、松屋フーズ様の次の挑戦をプロダクトの面からもしっかりとサポートさせていただきます」(金沢氏)
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