「生成AIっぽい」「どこかで見たことがある」という既視感“AI slop”の正体

前回のコラムではテレビ朝日系の正月特番『時代超越!タイムレスランキング』において、戦国武将などのイメージをイラストで用いる際に「AIが生成したイメージ」という表示(ディスクレーマー)をさせていた演出について取り上げました。

『時代超越!タイムレスランキング』の放映画面イメージと視聴イメージをAIで生成したもの。画面内の「AIで生成したイメージ」の表示も含めてAIで生成している(Nano Banana Pro、自社ツール、Photoshopを使い筆者作成)。

これはまさに生成AI使用が“お茶の間”に進出したという象徴的な出来事であり、議論を呼んだ経緯から、AI使用の透明性などについて考察をしています。

続く今回は、生成AI使用の納得感を形成するための設計にあたり理解しておきたい背景、特に“受け手側の視聴条件が変わっている”という点から考えていきたいと思います。

コンテンツ視聴のタイパ最適化と生成AIは相性がいい

長尺のテレビ番組、映画、ドラマ。こうしたコンテンツは、相対的に厳しい環境に置かれています。理由は制作費だけではなく、視聴者の時間の使い方そのものが変わっているからです。

データを見ると、生活者のメディア接触はネット優位が継続し、テレビ(リアルタイム視聴)は相対的に弱まっています。休日の40代でネット利用がテレビ利用を上回った、といった話題も報じられました。

また、スマホ接触時間が伸び、TVer利用が広がるなど、「テレビ=放送」ではなく「テレビ=配信とセット」という再編が進んでいます。同時に、YouTubeやショート動画が牽引する“タイパ(タイムパフォーマンス)”志向が広がっています。短い時間で情報を得る、移動中に見る、倍速で見る。こうした視聴習慣は、メディア体験の前提を変えます。

ここで重要なのは、タイパ化が「時間を短くする」だけではない点です。タイパ世界で最適化されるのは、しばしば“解釈の省略”です。短尺視聴は、深い理解より「瞬時の判断」が価値になります。面白いか、役に立つか、次に行くか。結果として、長尺が本来要求していた“読み解き”が省略されやすくなります。

生成AI映像の混入は、この省略と相性がいい。違和感があっても、立ち止まって処理されにくいからです。反応が二極化しやすいのは、この受信様式の変化が背景にあります。

映像の文法リテラシー理解は受け手の技能が要る

映像は、ただ見ればわかるものではありません。直感的に楽しめるのが映像の強さですが、その背後には共有された“文法”があります。ショットのサイズ、カット割り、視線誘導、光と影、動きのタイミング。こうした文法を視聴者が意識せずに受け取れるのは、身体に文法が入っているからです。

映像リテラシーやシネマ・リテラシーを扱う研究では、映像を読み解く能力と映像文法の理解が結びつけられてきました。

言い換えるなら、長尺コンテンツは「受け手の技能」に支えられています。長尺のドラマが成立するのは、視聴者が“間”を受け取れるからです。ドキュメンタリーが成立するのは、視聴者が“構造”を追えるからです。

タイパの世界では、この技能が衰えやすくなります。ショートはショートの文法があり、それ自体は高度ですが、長尺の文法とは別物です。長尺の文法を読む筋肉が落ちると、違和感を保持して評価や解釈へ変換する力が弱まります。すると、違和感が「嫌い」「無理」という結論へ直結しやすくなります。

ここで「AIが生成したイメージ」というディスクレーマーは、単なる注意書きではなく、解釈の手すりになり得ます。視聴者が「これはAIの質感が混ざる映像だ」と理解した上で受け取れるからです。

ただし、手すりは万能ではありません。AI映像が既視感を帯びやすいという問題が、別途、視聴体験を割っていきます。

既視感の正体:平均への収束と「AI slop」

生成AI映像を見たとき、「どこかで見たことがある」「AIっぽい」という既視感を覚える人がいます。この感覚は、偏見ではなく、制作の構造から説明できます。

生成AIは学習データの統計的傾向を反映します。雑に言えば“平均”に寄りやすい。構図、質感、表情、動きなどすべて最頻値に収束しやすい。これは生成AIの強みでもあります。平均的に見栄えのする絵を短時間で出せる。しかし同時に、平均は既視感にも直結します。

この既視感は社会的語彙としても可視化されつつあります。「AI slop」という言葉が、低品質なAI生成物の氾濫を指す概念として広まっています。

もちろん、すべてのAI生成物がslopではありません。ただ、量産される平均的AI表現が増えるほど、視聴者は“AIっぽさ”を嗅ぎ分けるようになります。

テレビの問題は、番組には固有の世界観があることです。トーン、色、テンポ、ナレーション、テロップデザイン。これらが作る統一感の中に既視感の強いAI映像が入ると、統一感が割れます。割れた瞬間に視聴者は「制作の都合」を感じ、没入が切れてしまいます。

そしてディスクレーマーは、その割れ目を見えやすくします。「ここがAIです」という強調にもなるからです。

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生成AI時代のテクニカルディレクション
岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

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