テクノロジーや社会の変化によって、仕事のかたちはこれから大きく変わっていくかもしれない。「空想ミライ仕事図鑑」は、まだ存在しないがいずれ生まれるかもしれない未来の職業を、ショートショートのかたちで描く連載企画だ。少し先の未来を舞台に、新しい役割を担う主人公たちの葛藤や挑戦を通して、仕事の本質を考える。空想からはじまる職業研究を、気軽に楽しんでほしい。前編はショートショート作家の田丸雅智氏の思考実験から始まり、後編はそこから物語を紡ぐ構成でお届けする。
革新的な技術が登場するとき、社会には期待と不安が同時に生まれる。新しい価値と人々のあいだをどうつなぐのか。対立や誤解を越えて理解を育てる仕事を、第3話では描いていく。
コミュニケーションの大切さは、いつの時代も変わらないのではないかと思います。特に新しいものが生まれるときには抵抗感や誤解や新たな課題などが生まれるものですが、そういったとき、発信者がコミュニケーションのとり方を間違うと、せっかくの意義あるものが広まらなくなったり、価値観のアップデートがうまく進まなくなったりしてしまいます。そうならないように適切なコミュニケーションをサポートするのも、広告やメディアの大事な役割のひとつではないかと思います。
未来においても、たとえば完全自動運転の車が実現したときのことを考えてみましょう。仮に、自動運転のほうが人が運転するより安全だとデータで示されたとして、でも、多くの人が感覚的に受け入れられずに自分で運転したほうが安全だと思いつづけていたとしたら。普及のために、人々とどうコミュニケーションをとっていくのがよさそうでしょうか。
あるいは、未来では3Dフードプリンターが身近になって、おいしくて栄養のある料理が瞬時に家庭でプリントできるようになるかもしれません。でも、手軽すぎるぶん、自分の家族や子供に出すのは手抜きのようで罪悪感にかられる人が少なくなくて、なかなか広まらなかったとしたら、どうしていくのがよさそうでしょうか。
ほかにも、人格を持ったロボットたちが当たり前に身近に存在するようになった未来。ロボットを依然として物と同じように乱暴に扱う人がいて、ロボットたちが苦しんでいたら、人々へどう働きかけていくのがよさそうでしょうか。
そんな中、今回ぼくが想像をふくらませてみたのが、バイオテクノロジーでマンモスなどの絶滅した生き物をよみがえらせて、飼育・展示する施設が誕生した未来の光景です。もし、その施設と人々をつなぐためのコミュニケーションについて考える仕事があったら?
ということで、ここで一作。いつの日か、こんな未来が訪れる、かもしれません。
ミライの新職種「Techコミュニケーター」
今度日本に上陸する “ロストパーク” の仕事を担当してほしいと言われたとき、私は思わず「えっ」と声が出た。ロストパークは、絶滅した生き物をバイオテクノロジーの力でよみがえらせて、飼育と展示をおこなう施設だ。数年前にある国で誕生し、現在、その日本版をつくるプロジェクトが進行中だという。
私は駆けだしのTechコミュニケーターとして、日頃からテクノロジーで生まれたものと人をつなぐ仕事をおこなっていた。が、生き物をつくる行為には抵抗感があることに加え、世界的にも賛否が激しい施設なので、あまり気分が乗らなかった。
けれど、くわしい話を聞く中で気持ちは変わった。
まず、ロストパークの創設者は、人類は絶滅した生き物たちに実際に触れ、命の重さと絶滅への理解度を上げるべきだという強い考えを持っていた。生き物たちが絶滅した背景には気候変動から人間活動の影響まで様々あるが、すべてをしっかり学んで今に活かさねばならない。そして、施設の利益は絶滅危惧種を守るための資金にあてる──。
全然知らなかった……と、私はイメージだけでちゃんと調べていなかった自分を恥じた。
本国のロストパークにも足を運んだ。生きたサーベルタイガーやドードーなどと対面して息をのむ中、特に心を揺さぶられたのがマンモスだった。その鳴き声を聞き、命の尊さと滅びの怖さを本能的に同時に感じた。
生き物をつくる行為への抵抗感は、やっぱりゼロにはならなかった。でも、少なくとも今の自分はこの施設をサポートさせてもらいたいと心から思えた。そうして私は、ロストパークを日本で展開するにあたってのコミュニケーションの方向性を探りはじめた。
もっとも避けるべきだと考えたのが、生き物たちを単なる見世物にしていると受け取られることだった。その点、本国のほうは割り切っていて、注目を集めるためならエンタメ色の強い打ちだし方も辞さないという方針だった。が、私自身が誤解していたように、日本ではその路線は逆効果だろうと考えた。
調査も何度もおこなって、最終的に私がたどりついた答え……それは、「生きる」を考える啓発施設として打ち出すというものだった。なぜ絶滅した生き物をよみがえらせて、この施設をつくったのか。創設者の考えを全面に出しつつ、人々にやわらかく問いかける。そして、生きるということを深く考えてもらう──。
私は関係各所と共有し、具体的な制作物へと落としこみはじめる。
その後、施設は無事にオープンし、来場者数は今のところ想定を大きく上回っている。慎重にコミュニケーションをとってきたことも奏功し、各メディアもおおむね好意的に取り上げてくれて安堵した。一方で、批判の声も決して少なくはなかった。中には誤解もあって落ちこみながらも、丁寧に向き合っていかないと、と気を引き締める。
私は今日も、自分の内にそっと耳を傾ける。
胸の奥で、マンモスの鳴き声が重く深く響き渡る。
(了)


