AIで浮いた予算は誰のものか? 価格下落と利用量爆発がもたらす広告・制作現場の新たな課題

写真はイメージです

本業の案件が立て込み、夏のあいだこの連載を休ませてもらった(※1)。その間も生成AIの世界は動き続け、こちらも渦中で手を動かし続けていた。そして夏が終わり、手元には過去最高額のAI関連の請求書が残った。

値下げが続いた夏、しかし7月のAI関連支出が過去最高に

振り返ってみよう。OpenAIがGPT-5.6を公開したのは7月9日。そこから2カ月足らずの間に、この系列のAPI価格は立て続けに下がっている。7月30日に下位のLunaが80%、中位のTerraが20%。8月21日には最上位のSolも、3カ月限定ながら20%超の値下げに踏み切った(※2)。

Anthropicも同じ向きにいる。最上位のFable 5は6月の公開以来、入力・出力の単価を据え置いたままだが、9月1日に公開された後継のFable 5.1は、同じプロンプトを繰り返し読み込む分の割引 (キャッシュ読み出し) を75%深くした。

典型的な作業でおよそ25%、エージェント型の重い作業なら最大45%安くなる、というのが提供側の説明である(※3)。単価表の数字を下げるか、割引の構造で実効単価を下げるかの違いはあるが、向きは同じと言える。

一方、単価は下降トレンドにもかかわらず、当社の支払いは増えてしまった。7月のAI関連支出は過去最高で、アカウント1つのAPI従量課金だけで1万ドルを超えたのだ。これは日本円にして150万円ほどになる。

増えたのは単価ではなく、使う量のほうである。筆者の使い方が特殊(※4)と言えばそれまでだが、生成AIを業務の中心へ据えた組織なら、程度の差はあれ同じ向きの力がかかっているはずだ。

値下げのニュースと膨らむ請求書は、矛盾なく同時に成立する。広告・制作の現場でも生成AIはとうに日常の道具になった。AIで浮いたコストの再配分が予算会議の議題に載る時期だ。浮いたはずの予算はどこに行ったのだろうか。

※1:本業はxRやリアルタイムCG、生成AIまわりのテクニカルディレクションで、この夏はその案件が重なった。あわせてお知らせをひとつ。今回から連載の文体を だ・である調へ改める。地の文を書くときの本来の調子はこちらで、連載を始めたとき勝手が分からないまま ですます調を選んで以来、ずっと落ち着かなさが残っていた。休載明けの仕切り直しに免じて、ご容赦いただきたい。

※2:GPT-5.6は下位からLuna / Terra / Solの3層で提供される。月・地球・太陽と、規模の序列を天体のラテン語名でなぞった命名である。公開と一連の価格改定の経緯は製品ページに整理されている。なお本稿を書き終えた後の米国時間9月3日、その上にGPT-6 Astra (ラテン語の星) が載った。層のない単一モデルで、API価格は入力10ドル、出力50ドル。Solの2.5倍、Fable 5と同額である。GPT-5.6の3層は価格据え置きで続いている。
https://openai.com/index/gpt-5-6/
https://openai.com/index/gpt-6-astra/
https://developers.openai.com/api/docs/pricing

※3:Fable 5.1とMythos 5.1も、同じモデルに安全機構の厚さの差を付けた2枚看板で、Mythos 5.1の提供先は米国の承認組織に限られる。ベンチマークでは科学系のターミナル操作課題 (Terminal-Bench-Science) が24.7%から52.6%へ倍増した。定額のMaxサブスクリプションのサブ制限 (後述) は、Fable 5.1にも同じくかかる。
https://www.anthropic.com/claude-fable-and-mythos-5-1
https://support.claude.com/en/articles/15424964

※4:筆者のClaude Codeの使用方法は、 常時10〜15の案件を同時に進め、自作のマルチエージェント環境で1つの案件の中でも複数のエージェントを並走させる、というもの。コーディングだけでなく、画像をモデルに読ませる制作系の工程も混ざってくる。

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生成AI時代のテクニカルディレクション
岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

岡田太一(sync.dev Technical Director/Visualization Artist)

CG会社のDigital Artist からキャリアを開始。ポストプロダクションを経て、現在はビジュアルクリエイティブ領域にてテクニカルディレクションを担当。得意な分野は映像編集、ビデオ信号とリアルタイム合成、トラッキング関連など。2022年から『ブレーン』で連載中。

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