押さえられない「広告枠」
グーグルの広告プロダクトの中心をなすのが「検索連動型広告」である。この業界の中では知らない人はもういないだろう。しかし当初は非常に理解されにくい広告商品であったことは間違いない。日本の広告代理店の出自は「媒体社の代理店」である。だからこそ「枠を押さえる」ということは現在でも重要な業務の一つであることは間違いない(余談だが、日本の広告業界はフィーに移行すべきだという意見をよく聞く。しかし僕自身は日本の広告代理店はコミッションでビジネスをするのがベストであり、フィーへの移行は相当難しいと思っている)。ところが「検索連動型」については「枠」を押さえることはできないのだ。
グーグルが普及する以前にも検索エンジンを持つポータルサイトは多数あったが、検索ボックスの周辺にあるバナー広告枠やテキスト広告枠を売っていたにすぎないので、有力ポータルについては「買い切り」が可能だった。しかし「検索連動型広告」については、そもそもユーザーがキーワードを入力してくれなければその「広告枠」は発生しない。だから広告枠の在庫が全く読めないので、広告代理店がある期間、ある広告枠を専売するという「買い切り」が不可能なのだ。そしてこのことが多くの(特にトラディショナル系の)広告代理店が、この分野においてネット広告代理店から後れを取ることになった要因だと考えている。
今では笑い話になるが本当に冗談のようなストーリーがあった。「グーグルのトップページを買い切らしてくれ」という問い合わせは当時本当にいくつかの代理店からあった。しかし広告主に「この場所のこの枠いくら」とセールスすることができないので、従来型の広告脳や広告セールスでは理解も説明も非常に困難。それゆえ、新しい広告脳、縛られてない広告脳を持った「ネット専業」と当時呼ばれた新興のネット広告代理店の若者たちのほうがどんどん大手の広告主にも入り込むことができたのである。
僕がグーグルにいる頃、古巣の広告代理店の同僚・先輩と食事をした際の話。彼らのうちの一人が「ネット、ネットって世の中騒がれているんだけど、まだ広告主のほうが準備できていないんだよね。だから提案はまだ本格的にはしていないんだよ」と言った。しかし一方、僕はその元同僚が担当している広告主にネット広告代理店の人々とその会食以前に訪れていた。元同僚には、「いや、それは君ら、トラディショナルと呼ばれる代理店のことを“マス専業代理店”って広告主が思ってるだけだよ。ネット系広告代理店が“ネット専業”と言われてるのとは逆の話。そんな風に思われてるから、ネットの話については声がかかってないだけなんだよ」と言ったことを鮮明に憶えている。「広告枠」というのも一つの「商品」だが、性質の変わった「商品」が出てきたとしても、なかなか「売り方」は変わらないものなのだな、と。(次ページに続く)
「高広伯彦の“メディアと広告”概論」バックナンバー
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