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コラム

高広伯彦の“メディアと広告”概論

メディアの「エンゲージメント」を活かすという視点

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読者と雑誌の結びつきが広告価値に~消費者とメディアの関係性に着目

ソーシャルメディアマーケティング業界で使われることの多い「エンゲージメント engagement」という言葉。例えば「つながり」、「絆」、「関わり」と日本語で翻訳されることが多く、消費者とブランドとのなんらかの結びつきを表す言葉として使われることが多い。しかしながらこの言葉、広告業界ではもともとは米国の雑誌広告業界で使われ出した、メディアプランにおけるキーワードであった。

dictionary.comでの定義によれば「engage」は、「誰かの注目や気持ちを独占すること」や「魅了しがっつりとつかむこと」、「約束や契約によって結ばれること」といった定義が見られる。また、SF『新スター・トレック』が好きな人はジャン・リュック・ピカード艦長が「engage!」とエンタープライズ号を発進させる際に号令をかけていたことを知っている人もいるだろう。この場合はもう一つの意味合い「部隊やチームをプロジェクト(や紛争)に投入する」といったニュアンスといったところか。

ただ、どれもが「気持ちをつかむ」や「ある行動へ向かうことが約束されている」ような状態という意味合いを持っている。日本語でもっとも「engagement」の意味を理解しやすい訳語はやはり「婚約」かもしれない。まだ一緒にはなってないが結婚に向かうと約束されている状態=婚約、とすればこの状態を消費者とブランドとの関係に置き換えて考えてみてもいいのではないだろうか。

さて、前述した米国雑誌広告業界での話だが、21世紀に入り日本と同様に米国でも雑誌広告の効果というものに対して議論が巻き起こっていたようで、そもそも雑誌が提供できる「広告価値」は何なのかが問われだしていた。自分たちは、単純に広告主からの広告クリエーティブを配置するための「枠」だけを提供しているのか? もっと読者と雑誌との結びつきを広告価値として理解してもらうことはできないだろうか、という観点から「メディア・エンゲージメント Media Engagement」というキーワードが生まれてきている。

この言葉をMPA(Magazine Publishers of America 全米雑誌協会。現在は The Association of Magazine Media と改名している)が2006年に発表しているのだが、「メディアと消費者との関係性を理解することにある」と定義している。残念ながらあまり知られていないが、2007年にはアサツー ディ・ケイ(ADK)とコンデナスト・ジャパンが共同で雑誌のエンゲージメント効果についてリサーチを行っており、「メディアのエンゲージメント効果」を理解する上で下記のような公式を残している。

Value Transfer Effect (価値移転効果) × Audience Activation Effect (起動効果) = Engagement Index (エンゲージメント指標)

Value Transfer Effectは、ある雑誌の持つブランド力がその雑誌に掲載された広告に乗り移ってその価値を高める効果、だという。Audience Activation Effect は結果として引き起こされた購読者の消費行動のことを指す。もとのリサーチのメンバーが以下の書き換えで納得するかどうかは分からないが、ちょっと上記公式を別の表し方をしてみよう。

(雑誌掲載によって得られた広告効果) ― (入稿された広告の持つ純粋な効果) = 雑誌の持つ広告価値

となり、この「雑誌の持つ価値」がメディア・エンゲージメントと呼ばれるものになる。私自身はこれを「雑誌の持つ読者に対するブランド力や結びつきによって増量された広告効果」と考えている。

メディアブランドとコンテクストを生かした広告こそ有効

例えば、『VOGUE』に掲載されたファッションブランドの広告は、そのファッションブランド自体が持つ価値に『VOGUE』というブランドのパワーも纏(まと)っている、という考え方である。雑誌広告の効果は見えにくい、と言われがちだが、一方で「あの雑誌に掲載されれば商品が動く」と呼ばれるような『Mart』のような雑誌も存在する。それは単に(昔よく言われたキーワードだが)「情報感度の高い読者がいる」から、とは言えないだろう。また、狙った読者にリーチできるターゲティングメディアだからという理由だけで使うと失敗する。むしろ、雑誌の持つブランド力とコンテクストを生かした広告が「効く」のであって、雑誌広告がすなわち効かないわけではないだろう。(次ページに続く)