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親しみやすさと品格を融合 九州デザインの底力に迫る—②小野原本店「パスタオイル」「小分けシリーズ」

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株式会社宣伝会議は、月刊『宣伝会議』60周年を記念し、2014年11月にマーケティングの専門誌『100万社のマーケティング』を刊行しました。「デジタル時代の企業と消費者、そして社会の新しい関係づくりを考える」をコンセプトに、理論とケースの2つの柱で企業の規模に関わらず、取り入れられるマーケティング実践の方法論を紹介していく専門誌です。記事の一部は、「アドタイ」でも紹介していきます。
第3号(2015年5月27日発売)が好評発売中です!詳しくは、本誌をご覧ください。

地域に根差す企業とクリエイターがパートナーとなり、新しい価値を生み出した事例を、手掛けたクリエイターが自ら解説。今回は九州地方、佐賀と長崎の事例です。

歴史と品格に手軽さをプラス“手に届く”贅沢品

「からすみ」といえば高級品。そう思う方が多いのではないでしょうか。今回は、そんな既存の概念を打ち破り、長崎を代表する珍味・からすみの美味しさをより多くの方に知ってもらうことを目指したパッケージデザインを紹介したいと思います。

小野原本店は、「安政の大獄」の年、1859年から続く、長崎の老舗海産加工品店。主力商品のからすみとその加工品は、贈答品・高級食品としての認知度はとても高い一方、実際に食べたことがある人は少ないという実情がありました。

修学旅行生にも勧められる商品に

手頃な価格で楽しめて、日常の食卓にフィットする商品をつくり、新たなファンを開拓したい—そんなオリエンを受けて、「からすみパスタオイル」と「小分けシリーズ」のパッケージデザインに取り組みました。「からすみパスタオイル」は、オリーブオイルにからすみ・にんにく・唐辛子を加えたもの。ゆでたパスタに混ぜるだけの便利な商品です。「小分けシリーズ」は、「からすみスライス」「からすみそぼろ」「からすみ茶漬け」といった、からすみ加工品を食べきりサイズにしたもので、1000円でおつりがくる手に取りやすい商品。どちらも、小野原本店の品質はそのままに、修学旅行生や小家族を含め、あらゆる人に手に取ってもらえるよう、生み出されたものです。

小分けシリーズ(左)と、からすみパスタオイル(右)。小野原本店の古い包装紙にもプリントされているマークを取り入れている。

デザインのヒントは150 年の歴史

デザインするにあたって、特に気を付けたのは、小野原本店の長い歴史と雰囲気を壊さないことです。「和」のイメージが強いからすみですが、実は地中海沿岸発祥でイタリアンとの親和性が高い。ワインにもとてもよく合う食材なんです。でも、むやみに「洋」のテイストにすると、小野原本店ならではの良さを損ないかねない。軸足は、あくまでも「長崎のからすみ屋さんがつくる」商品であることに置き、小野原本店の歴史から生まれた商品というアイデンティティをデザインに込めようと考えました。 お店を見学した際に見せていただいた、小野原本店の古い包装紙。その中にあった「小」をモチーフに、文化庁登録有形文化財である築90年余りのお店の外観もデザインに取り入れています。同じパターンで、リーフレットや包装紙にも展開しました。

「育っていく」デザイン

このように、仕事にあたっては、可能な限り現場を見学させていただくようにしています。そして、そのプロジェクトの責任者、あるいは社長とじっくり話せる環境があり、その思いをダイレクトに知ることができると、より良いアウトプットができると感じます。また、基本的にコンペには参加しません。話し合える信頼関係を築けてこそ、良い提案ができると思うからです。

小野原本店に関しては、担当の小野原善一郎さんと同世代ということもあり、打ち合わせのときには、「自分たち30代が地域に対してできることって?」「これからの長崎って…」といった話題におよぶこともしばしば。仕事を通じて、地元との関わり方を真剣に考えられるのも、ローカルで仕事をする醍醐味だと感じます。地域全体を盛り上げようというクライアントの意欲と心意気に引っ張られ、企画やデザインのアイデアが出てくると感じます。

ローカルでは、「消費」されるのではなく、地域に根付き、地元の人やそこを訪れた人に愛され、地域とともに「育っていく」デザインが求められることが多いと感じます。商品企画やブランディング、仕組みづくりなど、ビジネスの上流部分から関わりやすい点で、地域にはそういうデザインをつくりやすい環境があります。「ローカルだと、良い仕事はあまりないんじゃないの?」——そんなよくある質問には、「ここだからこそ、できる仕事がある」と胸を張って答えたいですね。

羽山潤一(はやま・じゅんいち)
クリエイター
DEJIMAGRAPH デザイナー、アートディレクター。1977年生まれ。印刷会社、デザイン事務所を経て2011年DEJIMAGRAPH設立。九州ADCグランプリ、長崎デザインアワード大賞など。


CLIENT VOICE:「×デザイン」でブランドの新しい一面を見せたい

地域に根差してきたぶん、「小野原本店はこういうブランド」という固定観念を持たれがち。そこに新しいデザインを取り入れることで、ブランドの「新しい一面」を見せられると感じています。羽山さんに依頼したきっかけの一つが、彼が過去に手掛けた「バラモン 五島手延うどん」のパッケージ。「うどんを、こんなふうに売っていいのか!」と驚き、羽山さんにお願いすれば、からすみのこれまでにない展開を生み出せるのではと考えました。

小野原善一郎(おのはら・ぜんいちろう)
小野原本店 取締役店長

mikkion-under

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