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コラム

ローマで働く 駆け出し国連職員の日常

スポーツは世界を救う!

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国連がサッカー漫画を出版?

新しい事務局長の就任のおかげで、1月に入ってから職場全体が活気に満ちている気がします。国際機関は組織によってはオープンオフィスのデザインもありますが、FAO本部はムッソリーニ時代の官庁ビルを利用しており、基本的に1、2人用の個室が主流です。ですから広報渉外局の同僚とも、定期的なミーティングでもない限りなかなか顔を合わせる機会がなく、内線やメール中心になりがち。なので、廊下やカフェテリアでばったり顔を会わせたときがコミュニケーションのチャンスです。気軽な会話から仕事のコラボレーションのアイデアが生まれるのも、多文化多国籍の職員が集まる国際機関の仕事の面白さでもあります。

昨日も建物内の銀行を出たところ(FAO内には銀行の支店が2つもあって便利です)、アイルランド人のイーファさんとばったり。「明けましておめでとう。仕事はどう?」「もうすぐ予定日だから、臨時のスタッフに仕事の引き継ぎをしているところ」「忙しいの?」「今年は欧州連合から支援がふんだんにあって、サッカー選手を使った飢餓撲滅イベントがたくさんできそうだよ」「え、アドタイで紹介したいからちょっと話を聞かせて!」とあっという間に今回の執筆協力を取りつけました。

FAOの広報渉外局ではスポーツ選手や音楽家、作家などの有名人を起用し、飢餓撲滅のためのメッセージを代弁してもらうことに力を入れています。日本でもUNICEF(国連児童基金)の黒柳徹子さん、UNDP(国連開発計画)の紺野美沙子さんらが親善大使やサポーターとなって慈善活動に協力していますよね。中でも前出の同僚のチームは、サッカー選手と一緒に広報活動をする「Professional football against hunger」(飢餓撲滅のためのプロサッカー選手) というプロジェクトを担当しています。

あまり知られていないのですが、国連事務局には「Sport for development and peace」(開発と平和のためのスポーツ)というプロジェクトがあり、国連のさまざまな国際機関を巻き込んで、スポーツ選手を使ったキャンペーンを展開しています。FAOのこのプロジェクトもその一環です。

最近、FAO、UNDP(国連開発計画)、WHO(世界保健機関)などと一緒に「Score the goals(ゴールを決めろ!)」という漫画を発表しました。英語、フランス語、スペイン語、中国語、ドイツ語、韓国語版まであるのに日本語がないのがちょっと残念ですが、英語の勉強がてらに読んでみてください。FAOの飢餓撲滅サッカー選手団のメンバーでもあり、親善大使でもあるロベルト・バッジオやラウール、国連開発計画の親善大使のロナルドなど日本にもファンの多い人気サッカー選手が登場します。ストーリーは無人島に流された8名のサッカースターが国連の掲げるミレニアム開発目標指標(MDGs)に関連するチャレンジを乗り越えていくというものです。

飢餓撲滅のためのチャリティ試合

FAOの「Professional football against hunger」プロジェクトは、サッカーの集客効果と人気を、プラットフォームとして活用しない手はない、とスタートしました。年間を通してロベルト・バッジオさんなど親善大使でもあるサッカー選手に途上国のプロジェクトを訪問してもらうなど、イベントを多数企画しています。

matchday

Match Day Against Hunger の様子 ©Alberto Prieto


Stoichkov and Vieira and Roest

欧州連合との連携を担当するマーティン・ロースト広報官とフリスト・ストイチコフ、パトリック・ヴィエラ (c)FAO (c)Soccerex

プロジェクトの山場は「Match Day」と呼ばれるチャリティ試合です。昨年春に行われた試合では、16もの欧州サッカーリーグ、314ものプロサッカークラブを巻き込んで、14カ国にまたがる157のスタジアムで、13カ国語でキャンペーンを展開しました。壮大なスケールのプロジェクトですが、担当チームはスペイン人のクララさん、欧州連合との連携を取るマーティンさん、そして前出のイーファさんの3名が中心の少数精鋭チーム。「サッカーリーグが非常に組織的に動いてくれて助かっている」ということで、試合同様、こうしたキャンペーンでもチームワークが鍵を握るようです。

こうしたスポーツ選手を利用することの「投資対効果」ですが、広報の観点から見ると非常に大きいと言わざるえません。人気急上昇中のキャサリン妃のチャリティ集金力は年間1ミリオンポンド(日本円に換算すると約1.2億円)とタイムス紙で報じられましたが、このプロジェクトでも、昨年アジアのサッカー選手やチームが中心となり、ドーハで行われたカタール対ウズベキスタンの試合のチケット販売を通じて、413,000ドルを調達しました。この収益はFAOの草の根農業支援プロジェクト「Telefood」に寄付されて、14000人に援助が行きわたる見通しです。

資金調達の観点からもそうですが、こうしたスポーツ選手が開発問題に興味や関心を示すことで、ファン達の関心を問題に引きつけることができるので、単純な投資対効果の試算を超えた以上のインパクトが期待できます。

賢い欧州連合人道援助局(ECHO)のスポーツ広報戦略

効果も抜群のスポーツマンを利用した広報戦略ですが、もちろんタダでではありません。選手にはギャラは発生せず、交通費のカバーのみ。親善大使の仕事は、慈善事業として時間を使っていただくことが前提条件だからです。しかし、途上国に出向いてのパブリシティビデオ製作などクルーが必要になったり、キャンペーンのWebサイトやTシャツ制作費など諸々お金はかかります。

そこでスポンサーに名乗りを上げたのが、欧州委員会人道援助局(ECHO)です。お金を出す代わりにEC/EUが援助しているプロジェクトを宣伝してね、という取り決めのよう。日本のODAも「見える化」などを掲げているようですが、このECHOのように人気スポーツ選手にECHO出資の援助プロジェクトの現場を訪問してもらい、その様子を、スタジアムやファンサイトを通して流す大胆かつユニークな広報戦略は参考になりそうです。2011年はなでしこジャパンも盛り上がったことですし、「スポーツを通して開発問題を語る」切り口で世界にアピールするのもひとつの案かもしれません。

山下 亜仁香「ローマで働く 駆け出し国連職員の日常」バックナンバー

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