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コラム

ローマで働く 駆け出し国連職員の日常

ミッションレポート後編: 途上国での撮影に奔走した2週間

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広報が現場を知ることの大切さ

前回は、長距離ドライブでバングラデシュの首都ダッカから、バリシャルという片田舎の町まで向かった、というところまで話をしました。結局、8時間近くの長旅になりました。

辛いのは日本のようにサービスステーションなどの休憩所がないこと。昼ご飯も食べ損ね、ビスケットと道路脇の屋台で販売している紅茶でしのぎます。使い回しのカップを簡単にすすいで次の人のお茶を入れるという不衛生きわまりないサービスですが、疲れと空腹も極限に近づいてくると、そういう細かいことはどうでもよくなるのが人間の性というものでしょう。

半月の間、何度となく屋台のお茶を楽しみました(もちろん腹痛にも悩まされましたが、屋台のお茶のせいか食事のスパイスのせいか因果関係は不明)。ミッションの間は、ほぼ毎日のように車で僻地に向かうことを繰り返したのですが、途上国の開発問題を語る際にいつも耳にしていたインフラ整備の課題などが身にしみて分かったので、たとえ広報などのサポートのプロにとっても、現場に出向くことが大事であると実感できました。

日テレ式が途上国で通用するか?

バリシャルに到着したら、翌朝から撮影ツアーの始まりです。最初に訪問するプロジェクトは4年前のサイクローンで打撃を受けた農村の復興援助プロジェクトで、世界銀行の支援を受けているものです。もともと貧しい南バングラディッシュの農村が、自然災害で作物や家畜を失い、さらにひどい状況になってしまったそうです。

プロジェクトはこうした農民たちに種や農業用具、家畜を与えるほか、次のサイクローンに備えられるようトレーニングを行っています。「気候の変化に強い稲を育てるには」「家畜の病気を予防するには」などすぐに役立つ知識と技術を参加型のレッスンを通して学びます。これは「Farmer Field School」(日本語では『農民青空教室』といったところでしょうか)というモデルに基づく教育プログラムで、FAOが開発したものです。世界の貧しい農民の多くがこのプログラムを通して生活の質を向上させているそうです。

撮影ミッションとしては、一般の視聴者の方がFAOのウェブサイトやYouTubeのチャンネルを通して興味を持って見てもらえる広報番組を作るのが目的なので、日テレ勤務時代に覚えたテクニックを思い出し、面白い「絵」をどうやって撮るか、ピーターとの議論も白熱します。プロジェクトの受益者の方に、どう生活が変わったか話してもらうのが一番なので、訪問先の村では必ず受益者の方と話をします。

一番大変なのは野次馬の管理。国連の撮影ミッションが来るという噂を聞きつけて、村中の人がやってきて、撮影を見物します。野次馬の中には携帯電話をマナーモードにしない人が多く、撮影中に呼び出し音が鳴って撮影し直すこともたびたび。「携帯はオフにしてくださいー」言葉が通じないので、現地スタッフに通訳をお願いしながら指示を出すのですが、現地スタッフからさらに他の現地スタッフに方言の通訳が入ったりで、大騒ぎです。

アヒルを追いかけて撮影に駆け回る

撮影ツアー1

アヒルが逃げて大騒ぎ!後ろにいるのが受益者の女性。© FAO/Bitu

訪問した村の中には女性を中心に鶏やヤギを育てる事業に力を入れているところもありました。現地担当官がぜひ紹介したい受益者の女性がいるということで、私たちの期待も高まります。Minaraさんという40歳ぐらいの女性ですが、FAOのプロジェクトから10羽のアヒルを貰い、卵を売って得た収入でヤギを4匹も購入したという、ちょっとしたビジネスウーマンです。

「この小屋にいるのが最初に支給されたアヒルと、そこから生まれたヒナを育てたものです」と小屋を開けてくれるのですが、アヒル達、撮影隊と野次馬にびっくりして逃げ回ります。撮影時間も限られているのでフレームに入る範囲内に動物を誘導すべく、私もアヒルを捕まえに駆け回ります。野次馬の村人たちもその状況にエキサイトして、一緒になって駆け回ります。カメラを回すピーターはあまりの可笑しさに笑いをこらえるのが必死なようですが、楽しい撮影になりました(それにしても、ボリウッド映画の影響か、貧しい農村の受益者の方々は、皆映されることに抵抗があまりなく、よどみなくインタビューに答えたりするので驚きました)。

誠意のこもったもてなしに感動

撮影ツアー2

どの村でも村人総出で撮影隊を手伝ってくれた。© FAO/Bitu

撮影ツアーの間、様々な村を訪問し、沢山の農民の方にあいました。中でも心を揺さぶられたのは、いく先々で村長さんやリーダーが出てきて感謝の気持ちを込めて卵焼きやココナッツジュースなどを振る舞ってくれたことです。

自分たちも食べるものに困っているという状況のなか、ミッションの私たちに誠意のこもったもてなしをしてくれることに、私は感動しました。例のMinaraさんも、撮影を終えて次の村に向かうべく帰り支度をする私たちを「ちょっと待って、卵焼きを作ったから食べて行ってほしい」と追いかけてきました。いつの間にか椅子まで用意されて、田んぼの真ん中で卵焼きをいただいたのですが、これが本当に美味。ローマの本部でやっていたデスクワークが、こういう形で発展途上国の援助につながり、受益者の生活に影響を与えていることが分かりました。国際開発の広報という仕事を選んでよかったな、と思えたひとときです。

「ミッション、やみつきになった?次はどこにいこうか?」と帰りの飛行機でピーターはもう次のミッションの話をしていました。滞在先のホテルでトイレットペーパーがなかったり、停電に困ったり、お腹をこわしたり、大変なことも多いミッションでしたが振り返ってみると価値ある旅になったかと思います。これから撮影したビデオの編集に入りますが、仕上がったものはまたこの場を借りてご紹介しますね。

次回はイタリアのコミュニケーション業界事情についてお話しします。

山下 亜仁香「ローマで働く 駆け出し国連職員の日常」バックナンバー

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