メール受信設定のご確認をお願いいたします。

AdverTimes.からのメールを受信できていない場合は、
下記から受信設定の確認方法をご覧いただけます。

×
コラム

ローマで働く 駆け出し国連職員の日常

60歳バースデー企画に奔走!

share

条約のお誕生日を祝うには?

1月も半ばに入ってくると休みモードは消え去って、がつがつ仕事するぞーという空気に満ちてきます。今日もそんな流れで「4時半からミーティングをしよう」と会議のお誘いが。5時が定時なのでイタリア的感覚からいうとちょっと遅いスタートですが、お誘いの主は日本人。しかも大きな国際イベントの計画会議なのです。

IPPC事務局

IPPC事務局のスタッフ集合写真。左手にいるのが横井氏。

この会議は、IPPC(International Plant Protection Covention 国際植物防疫条約)という条約の60周年を祝うイベント準備のコミュニケーション委員会のキックオフ。駆け出し国連職員の私ですが、この条約の事務局長を務める日本人の大先輩横井幸生氏からご指名いただいて「コミッティメンバー(委員)」として参加させてもらうことになっています。他のメンバーは加盟国の農業関係省庁の高官だったりするので、気が引き締まります。

「さあ、早速3月の記念式典についてアイデアをブレストしましょう」と横井氏。チームの雰囲気を盛り上げます。「60周年記念サイトを活性化させるには」「記念イベントで大々的に記者会見をするのはどうか」などアイデアが次々と出てきます。

国際条約の世界の面白さを知る

横井氏

日本人同僚と歓談のひととき。横井氏には在ローマ国際機関日本人会の幹事という横顔も。

この条約は、60年前にFAOが中心となって35カ国の協力のもとに締結したものです。FAOは農業開発援助のほかに食物の安全基準や漁業の乱獲を防止する国際的なルール作りにも力を入れています。恥ずかしながら、FAOに入る前はこのIPPCについては全く無知だったのですが、横井氏との出会いによって、国際貿易がもたらす疫病や害虫の侵入から植物を守るという国際条約の世界の面白さを知りました。横井氏は日本の農林水産省から「出向」という形で、いわば助っ人としてやってきてこの条約の運営や運営資金集めなどの難しい仕事を一任されています。

「農林水産省では、これまで農業関連の開発、環境、貿易交渉などの仕事を経験し、たびたび国際的な場面に関わってきました。特にFAOに来る前の数年間は、途上国の農業・農村への技術協力と日本の食材を世界に紹介するための宣伝マン、加えてそういった自分の海外経験を元に某女子大の学生さんたちと一緒に、技術協力とは何かを考える講師役も務めました」。横井氏は多彩な経歴の持ち主です。

「かつて別の国際機関で働いたことがあり、いつか再びチャレンジしたいと思っていたところ、この事務局長ポストの求人を見つけ、ダメ元で応募しました。気がついたら最終審査まで残ってしまいびっくり。テレビ会議の面談でわざと軽い冗談を言って自分をリラックスさせたのがよかったみたいです」。確かに横井氏は難しい会議の間にも「IPPCを宣伝する漫画や携帯ゲームでも作れたらいいよね」などクリエイティブな案を出して、笑いを誘います。国連はやはり役所なので、発想が凝り固まりがちな職員が多く、こういう柔軟な発想は大事にしたいなぁ、と思います。

技術情報のコミュニケーションは難しい

「IPPCは、加盟国の2つの大きな関心事から成り立っています。各国は、病気や害虫の侵入から国内の植物を守りたい。しかし、そのために貿易(輸出入)や人の移動にマイナスの経済的影響は出したくない。そこで『国際基準』と呼ばれるルールを作り、それに従って各国が行動するようにし、保護は本当に必要な範囲だけとする。こうして、無用な各国間のもめごともなくそう、ということです」。横井氏は難しい条約の構造を簡単に説明しますが、この概念を国際的に広めるのは至難の技。どうしても疫病とかおどろおどろしい話題に触れざるをえないのですが、ここでも横井氏、気の利いた「エピソード」を巧みに利用します。

「IPPC条約の誕生につながったもとのきっかけは、北米起源の害虫の侵入によってヨーロッパのブドウが全滅しそうになったときの国際間協力と言われています。もしこのときに失敗していたら今日フランスやイタリアのワインを楽しめなかったと考えれば、本当に重要な条約だとわかるでしょう」。この条約なくしてワインなし、という訳なのですね。しばしば気候変動で有名なIPCCと間違われるのですが、すかさず「IPPCのほうがPが多い(more P’s = more peace)」と切り返し、ジョークを交えながらIPPCを売り込む横井氏。知的な笑いは国境を超えて通用します。

来たれ日本人の若者よ

横井氏率いる条約事務局は、短期スタッフを含めてたった20名で運営されています。その人数で300人規模の年次総会から10名ほどの専門家の集まりまで、年間大小約40の会議を運営しているのです。他にも、各国・専門家の合意ができるまで文書の改訂を繰り返す、各地域に出かけて研修を行い、プロジェクトに技術的なアドバイスをする、植物防疫に関する情報をわかりやすく伝えるWebサイトを運営する、各国からの報告提出を促す、などの活動を通じて条約活動を裏で支えています。地味そうに見えますが、国際交渉などの場面に触れられるので、大学院生など若者には人気のインターン先だそうです。

「この業界で働く人はベテラン専門家が多いのですが、次世代も育てなければいけません。条約の名前が難しいからと、入り口で遠慮してしまうかもしれませんが、私がいる間であれば、英語でのコミュニケーション、やる気、ある程度の処理能力がある人ならできるだけ受け入れる努力をします。広報、IT、開発、情報整理など、色々と貢献できる分野はあります」と横井氏。積極的にフレッシュかつ才能あふれる日本人に門戸を開きたいそう。興味がある人はぜひご連絡ください。またIPPCのFacebookページを、ぜひ『いいね』で応援ください。

山下 亜仁香「ローマで働く 駆け出し国連職員の日常」バックナンバー

もっと読む