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コラム

ローマで働く 駆け出し国連職員の日常

ミッションレポート前編:初めての途上国ルポに出発!

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国連職員として一人前になるための関門?

前回のコラムまではインターネット上での飢餓撲滅キャンペーンについて話してきましたが、今回は打って変わって「ミッション」についてお話します。日本人には聞き慣れない言葉ですが(映画の『ミッション・インポッシブル』を思い出すぐらいでしょうか)国際機関や世界銀行などでは発展途上国の現場に出る出張のことをミッションと呼ぶようです。国際協力の世界では、どんな僻地や厳しい状況の場所にミッションに行ったかを武勇伝のように語る人もいて、やはり国連職員として一人前になるには通らなければならない関門のような気がしていました。

メディアが行かない僻地に赴く

実はミッションについては赴任前に頂いた職務記述書にも書かれていたので、いつか行くことになると予想はしていましたが、具体的に話がでたのは赴任から1カ月後の上司とのミーティングでした。もうすぐ定年というベテラン広報官のピーターと三者面談のような形で今後の仕事のやりかたなどについて話し合う中、自然と話題はミッションの計画に。

「どこに行くのがいいかなぁ」(ピーター)
「南アジアのプロジェクトの広報マテリアルが足りないので、インドに行ってくれないかしら」(上司)
「私はアフリカに行ったことがないので、アフリカはどうでしょう?」(私)
「インドいいねぇ、プロが撮った広報用の写真とかもインドからはほとんどないし」(ピーター)
「あの、近場でガザ地区なども興味があるんですが…」(私)

どうせ行くならアフリカやパレスチナなど国連職員でなければ近づけないような場所に興味があったのですが、業務のための出張なので計画はベテランのピーター氏に任せることにしました。「来年はアフリカに行けるように頑張ろうね」と励ましてくれるピーター氏、これまでの20年近くのキャリアで回った国は80カ国以上にも上るそうです。「国連の広報官の仕事の醍醐味は、こうやって世界を回って色々な場所で多くの出会いを経験することだ」とピーターはミッションの意義について語ってくれます。

撮影現場

撮影現場でのひとコマ。後ろにはこんな人だかりが。© FAO/Bitu

行き先が決まると、次に取材するプロジェクトを探します。(広報用にPRすべきプロジェクトありきのミッションもあります。またお隣りのIFAD(国際農業開発基金)では年間のテーマ地域を決めて、今年は西アフリカ、来年はアジア、など集中的に取材班を送り込み、写真やPRビデオ、関係者のインタビューなど広報素材を集めるという戦略をとっているそうです)。国連が活動をしている地域は僻地が多いので、メディアが取材してくれるのを待つよりも、自分たちで取材班を送り込み、ビデオや写真などを撮ってそれをメディアに流すという前向きが姿勢が不可欠なのです。

さて出発—その前にセキュリティトレーニング

「南インドのアンドラプラディッシュ地域に、地下水を農民が自分たちで計測して使い方の計画を立て、管理する面白いプロジェクトがある」とピーターが夏前に取材するプロジェクトを見つけてくれました。「どうせインドに行くなら、ちょっと足を伸ばしてバングラデシュにも取材に行こう」とあっという間にバングラデシュでも訪問プロジェクトを2つほど見つけてきます。さすがベテラン広報官だけあって、社内ネットワークも、計画立案のコツも心得ています。こうして、バングラデシュとインドの田舎を回る、走行距離1500キロ、約半月の過酷な取材ツアーの日程ができあがりました。

飛行機の切符も取って、予防接種を受けて準備万端と思ったら、大事なことを忘れていました。発展途上国などのフィールドに出るには国連のセキュリティ(安全保障)トレーニングを受けなければならないのです。このセキュリティトレーニングというのはインターネットで受講できるレッスンで、運転免許の学科教習みたいなものです。危険な地域に出張することの多い国連職員を誘拐や事故などから守るためのシステムで、非常に実践的な内容です。中には「ジャングルや砂漠で迷子になったらどうやって夜を過ごすべきか」「誘拐されたらどう行動すべきか」など、想像を絶する場面もあります。赴任前に日本の外務省主催の研修に参加した際にもセキュリティトレーニングを受けたのですが、その際にもハンドブックのようなものいただき、出張先のホテルでは何階が一番安全か、ドアには内側からゴム製のストッパーを挟むように、などすぐに使えるテクニックをいっぱい教えていただいたのを覚えています。

乗り継ぎ重ね、現地へ向かう

慌ただしく出張準備を終えて、いざ出発です。ローマからドバイ経由でバングラデシュのダッカに到着して、日曜に現地事務所に向かいます(ムスリム圏は日曜が一週間の始まり)。事務所の方から資料などを受けとって、フォトグラファーと落ちあい、トヨタのランドクルーザーに乗って、いざ田舎の村へ!「日が暮れると真っ暗になって危険なので、11時までには出発しないと」とドライバーさんがせかすのも当然、どうやら目的地であるバリシャルまでは車で7時間以上かかるそうなのです。

旅はまだ始まったばかり、次回はミッションの後編です。

山下 亜仁香「ローマで働く 駆け出し国連職員の日常」バックナンバー

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