示す、ゆだねる、話し合う、決める、というPDCAサイクル。―プロデューサーの現場から(ももクロファービー篇)

今回は、直近に実施している「ファービー」の事例を通して、プロデューサーの現場(具体的にどんなことをしているのか?)について触れてみます。

ファービーについてはご存知の方も多いかと思いますが、世界中で人気になり、日本でも13年前に大ヒットした電子ペットぬいぐるみです。そのファービーが今年、世界同時リニューアルしての新発売となったのですが、ご縁あって日本でのコミュニケーション展開を担当いたしました。

そのプロデュースの現場を時系列に追っていきます。

スタッフィング

制作ディレクション等を担当してもらうスタッフィングはとても大切だと考えます。とはいえ自由にお願いできるわけではないので、各上長と一緒に「スタッフの現状」と「案件が要求する内容」とをすり合わせていく必要があります。今回は本当にスタッフに恵まれたと思います。

さて、スタッフィングのあとは実作業です。まず課題となったのは、効率的な認知最大化(そのために社会的な話題になること)と、リニューアルされた様々な商品特徴を印象付けることとの両立でした。

キャスティングについては、ももいろクローバーZ(以下、ももクロ)さんなら上記課題が解決できそうな予感があり、その方向で動きつつありました。さあ、具体案をどうするか・・・。

アイデア開発のマネジメント

ということで、ももクロさんで突破できそうな感触を皆が持っていながら、何かモヤモヤしていました。ここで「キャスティング候補の幅を拡げる」という方向ももちろんあったのですが、今回は「掘り下げる方により多くの時間を使う」という方向を示しました。スタッフ一同なんとなく向いている方向が一緒の場合でも、それを可視化するのは重要です。(当然、向いている方向がバラバラなときはそれを修正するところから始める必要があります)

インプット環境の整備

そうと決めてしまえば、あとはインプットに限ります。
とある土曜日、「ももクロ合宿」をスタッフに持ちかけて実施しました。友人のモノノフ(ももクロさんのファンはこう呼ばれます)さんにご協力いただき、スタッフ一同集まって、ももクロさんのコンサートDVDを半日ぶっ通しで見続けました。

その結果、6時間くらい見たタイミングで、クリエイティブディレクターが「メンバー5人それぞれの際立ったキャラクターがファービーの特徴と上手くオーバーラップすること」に気付きました。

企画スタンスの提示

その視点が出た時点で、自分としては「突破した」と思いましたので、あとはその軸「ももクロさんの個性を発揮することがファービーの自己紹介になる」、つまり「ももクロさんのコンテンツ≒ファービーの広告」が、ぶれないように進行しました。

TVCMの企画は、ファービーに扮したももクロさんが自己紹介をするというストレートなものですが、その紹介する機能が個々のメンバーのキャラクターと紐付いているため、普通に見ても広告として機能し、「モノノフさん」が見るとさらに楽しめるコンテにまとまりました。

交渉スタンスの提示

このコンテをベースに、ももクロさんサイドと企画を膨らませていきました。色々なタイミングが合って運よく発売シングルのカップリング曲とタイアップできることとなったのですが、その楽曲自体や楽曲ムービーの内容も、上記の軸に沿って調整を進めていきました。

様々な調整は必要でしたが、結果的には当初のアイデアをそのまま具体的な映像にまで着地させることができ、素晴らしい楽曲とそのムービーができました。無事着地できたのも、企画のベースが商品要素一色ではなく、ももクロさん要素も多く入っていたことが寄与したと思っています。

交渉事はいかに関係者全員にメリットを感じてもらえるかがポイントだと考えていますが、企画自体にそういう要素が入っているとスムーズに進みやすいです。
(逆にそうでない場合、難航したことも過去経験しました。)

結果、「楽曲および楽曲ムービー」と「TVCM」とを同じ軸で企画することができたので、演出も同じ世界観で統一することができました。制作陣についても、普段からももクロさんのPVを多数手がけている方々にお願いすることができ、本当に助けていただきました。

メディアプランスタンスの提示

そんな制作の準備が進行していく中で、自分としては、「TVCMが先にあるのではなく、楽曲ムービーが先にあり、その世界観からTVCMを切り出す」イメージを持ち続けるようにしました。というのも、「まず楽曲ムービーが話題になるだろう」という読みがあったからです。楽曲ムービーが人気になっているタイミングでその世界観と連動しているTVCMに触れてもらう、という状態をつくり出し、TVCMの話題性も一緒に高める意図です。
したがって、PR施策を除き、メディアプランとしてはなるべくシンプルにTVCMに寄せるようにして、TVCMオンエア開始の前日に楽曲ムービーをYouTubeにアップしました。

※尚、今回の取り組みにおいてPRはかなり重視しています。PRイベント(商品発表会)は当然として、本施策全体の企画趣旨自体がPRソースになることを意識しました。この辺りのテーマ「広告とPR」については、また回を改めて触れられれば、と思っています。

結果として、楽曲ムービー

はYouTubeにアップして3日で再生数100万回を突破、週間ランキング世界8位(エンタメカテゴリー)、日本1位(カテゴリー全体)を獲得、Twitter上でも、「ファービー」「ファービーのCM」の2つのワードがトレンド入りを果たすことができました。

まとめ

振り返ってみると、(過去のコラムでも書きました)「示してゆだねる」という大きな流れの裏に、常に存在する「話し合って決める」という要素も、当然ですが大切なプロデュースの要素です。

関係者間で企画の軸を握った以降も、その軸からぶれないようマネジメントする必要がありますが、そのプロセスにおいては常に小さな「話し合い」と「決断」がグルグルと回転していきます。その回転において、当初の軸を修正する必要が出てくれば、また「示し直す」必要も出てきます。これはまさにPDCAサイクルを回すことに他なりません。

今回は、大きく「示し直す」ことはほとんどありませんでしたが、企画が決まってからも様々な「話し合い」と「決断」の場面が多数あり、まさにそういった経験を積む貴重な機会となりました。関係者の皆様、本当にありがとうございました。

今年のコラムはこれにて終了です。次回も通常通り2週間後の来年1月7日(月)を予定しています。年明けすぐのタイミングですので今までとはちょっと趣向を変えた内容にしようと思っています。それでは、よいお年をお迎えくださいませ。

PDCA」関連記事はこちら


【梅田 亮「33歳、現場プロデューサーが考えるエージェンシーの未来」バックナンバー】

梅田 亮(大広 デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター プロデューサー)
梅田 亮(大広 デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター プロデューサー)

2002年大広入社の11年目。33歳。経歴の半分はマーケター、もう半分はコミュニケーションデザイン領域。
その間もR&D業務の兼務や博報堂DYグループ横断プロジェクト(次世代型コミュニケーションモデルの検討)への参加など多様な経験を積む。
2012年4月に、新設された「デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター」へ志願異動。デジタルを旗印としつつ、新たな領域全般を積極的に取り込み、コミュニケーションプロジェクト全体を統括/推進する機能を担う。
受賞歴は、TIAA2008ブロンズ、AD STARS 2012ファイナリスト、JAAA2011年クリエイティブ・オブ・ザ・イヤーノミネート等。


Facebook:http://www.facebook.com/ryo.umeda.77

梅田 亮(大広 デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター プロデューサー)

2002年大広入社の11年目。33歳。経歴の半分はマーケター、もう半分はコミュニケーションデザイン領域。
その間もR&D業務の兼務や博報堂DYグループ横断プロジェクト(次世代型コミュニケーションモデルの検討)への参加など多様な経験を積む。
2012年4月に、新設された「デジタルソリューション局 第1プロデュースセンター」へ志願異動。デジタルを旗印としつつ、新たな領域全般を積極的に取り込み、コミュニケーションプロジェクト全体を統括/推進する機能を担う。
受賞歴は、TIAA2008ブロンズ、AD STARS 2012ファイナリスト、JAAA2011年クリエイティブ・オブ・ザ・イヤーノミネート等。


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