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コラム

広告の未来の話をしよう。COMMUNICATION SHIFT

今村直樹さんに聞く(前編)「広告づくりとは、一体感である」

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新年、あけましておめでとうございます。
昨年は、このコラムをお読みいただき、ありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。
広告の未来を、広告をつくる僕ら自身が考えるCOMMUNICATION SHIFT、2013年第一回は、ディレクターの今村直樹さんです。
今村さんは、昨年、著書「幸福な広告―CMディレクターから見た広告の未来」(羽鳥書店)を出版され、僕は、その本の中で、今村さんが取り組んでいる「オフコマーシャル」という試みを知りました。
通常のCMは、クライアントが広告代理店やクリエイターにオーダーしてつくられ、テレビでオンエアするもの。でも、クリエイターのほうから企画し、クライアントへ提案してつくり、テレビでオンエアすることを前提としないCMがあってもいいのではないか。そんな今村さんの想いからスタートした「オフコマーシャル」の試みに心惹かれたのです。
その「オフコマーシャル」でつくられたCMの一つが、この「シャボン玉石けん」のCMです。

石けんづくりに取り組む職人たちの姿をストレートに映したこのCMが、「クリエイターたちの自主的なプロジェクト」としてつくられたという事実に、僕はある種の衝撃を受けました。
広告からすべてを剥ぎ取ったときに、それでも残る「広告ならでは」の部分が、このオフコマーシャルの試みを探ることで見えてくるのではないかと思ったのです。

広告の未来の話をしよう。
COMMUNICATION SHIFT

今週は、今村直樹さんです。

今村直樹プロフィール
CMディレクター。東北芸術工科大学教授。サン・アドなどを経て、88年、今村直樹事務所を設立。2002年よりCM制作者集団ライブラリーを主宰。数多くの企業のCMを企画・演出。2011年、早稲田大学大学院公共経営研究科を修了し、地域活性化のための広告にも目を向けている。著書に『幸福な広告』(羽鳥書店刊)。
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CMを、頼まれてつくるのではなく、自分でつくればいいんだ

今村直樹さんと

並河:よろしくお願いいたします。そもそもこのオフコマーシャルの試みを、なぜ、はじめたのですか?

今村:自然な流れでそうせざるを得なくなったんですよね。
2008年頃から、自分のブログをはじめて、今のCMの世界の現状について、いろいろ書いていたんです。
この息詰まるような閉塞感はなんなんだ、とか、クリエイティブディレクターの方が「今回はこういうことでクライアントと握ったから」とよく言うけれど、「握る」って言葉、すごくいやだな、とか。
書くことで漠然としていた問題は、本棚に並ぶように整理されてくるんですが、そうすると、今度は「じゃあこれからどうするんだ?」っていうことが自分自身にもはね返ってくるんですよね。
そのとき、「じゃあ、CMを、頼まれてつくるのではなく、自分でつくればいいんだ」ってシンプルに思ったんです。
一作目はDIGAWELというファッションブランドで、二作目がシャボン玉石けん。今、三作目をつくっています。

工場見学を予約して、北九州市まで見に行ったんです

並河:僕が特に感動したのは、シャボン玉石けんのCMで、石けんがつくられる姿をストレートに描いていますよね。商品カットもすごく丁寧に撮影している。

普通、「クリエイターが自主的につくるCM」となると、「もっと表現をしよう」と考えそうですが、そうじゃない。それが、素晴らしいなあと思ったんです。なぜ、シャボン玉石けんのCMをつくろうと思ったんですか。

今村:シャボン玉石けんを知ったきっかけは、北九州市の情報誌に、とても丁寧に石けんづくりをしている様子が載っていたんです。直感的に、これはオフコマーシャルをつくりたい、と思ったんですよね。
その後、実際に、自分でシャボン玉石けんを使ってみたら、本当にいいんですよ。冬場、体がかゆくならない。
そこで、次は、工場見学を予約して、北九州市まで実際につくられている様子を見に行ったんです。一人で工場見学に来る人は珍しいから、この人は何だろう、もしかしたら競合のメーカーの人かなって、思われていたらしいですが(笑)、そんな僕に対しても、すべてオープンにして、石けんづくりの様子を見せてくれました。工場の人が、石けんを舌でなめて、品質を確かめている様子にも感動しました。無添加だからできることです。
僕らは普段CMをつくって、企業の何かを語っているような気がしているけれど、肝心なことは伝えていなかったりする。「安全」と伝えていても、その安全性を、自分の目で確かめていなかったりするんですよね。
シャボン玉石けんは、つくっている過程がほんとうに素晴らしいから、その様子を、できるだけ表現せずに伝えたいと思ったんです。

並河:最初に、「オフコマーシャルをつくらせてほしい」とシャボン玉石けんの方にお願いしたときの反応はどうでしたか?

今村:オフコマーシャルの試みをはじめたばかりだったので、実験として、予算はいらないのでつくらせてください、とお願いしたんです。
当然、警戒されました(笑)。何か思惑があるんじゃないかって。
シャボン玉石けんの社長に、広告に対する僕の問題意識までひたすら語ったところ、「何か熱いものを感じた」と了解していただき、撮影に協力していただけることになりました。

石けんはどうできているのかをきちんと知らないとダメだという想い

並河:撮影はどれくらいかかったんですか?

今村:何回撮影したら完成というのはないんですよね。別に締め切りもないので。
でも、そのかわり、企業の人たちが何を思っているのか、石けんはどうできているのかをきちんと知らないとダメだという想いがありました。
カメラマンの蓮井幹生さんといっしょに、結局、4回足を運びました。時間がかかったんだけれど、むしろ考えてみれば、本当は、あたりまえのことなんですけどね。

並河:僕は特に、石けんづくりの職人の方が、畑で石けんを持って立っているシーンが好きなんです。

今村:シャボン玉石けんの社員はみんな会社をやめるときでも「この石けんは好きだから使い続けます」と言うらしいんです。それがすごいなあ、と。
作る人は同時に使う人でもある。そういう気持ちを込めて、社員が使っている姿も映したい、と考えたんです。
そこで、シャボン玉石けんを使っている様子を撮影するために、石けんづくり職人の方の自宅までうかがったんです。でも、家の中ではなかなか、ちょうどいいロケーションが見つからなくて……。ごはんをごちそうになった後、その方が、僕らを自分の畑に連れてってくれたんです。無農薬で野菜をつくっている、その畑を見たときに、「あ、ここだ」と思って。
それが、あのカットになったんです。

モノづくりのあたりまえの実感すら、今広告の現場から失われているんじゃないか

並河:試写をしたときの社員の方々の感想はどうでしたか?

今村:試写は、本当は必要なかったんです。だって、勝手につくっているわけですから。
CMをホームページにアップしてもらうことは決まっていたので、データをメールで送れば終わりなんですけど、このCMを初めて見る社員の方々の顔を見てから、渡したいと思ったんです。
そこで、「試写をしたい」とお願いしたら、お昼休みに、社員がほぼ全員集まってくれて。僕らディレクターは、試写に立ち会うことってなかなかないんですよね。だから、その試写の様子だけでわくわくしてしまいました。
上映して、感想を聞くと、CMに出演していた石けん職人の方が、「俺の人生、そのものたい!」とおっしゃったんですよね。石けんづくり一筋の方で。社長にも「ありがとうございました」と頭を下げて言っていただきました。
普通に感謝されたっていう、あたりまえのことなんですけどね。
ちゃんといっしょうけんめいモノをつくって、モノを納めて、受け取ってもらえて、ちゃんと喜んでもらえて、ちゃんと感謝されて。
でも、そのあたりまえのことに、スタッフみんな感動して、泣いたんです。モノづくりのそういうあたりまえの実感すら、今広告の現場から失われているんじゃないかな。
結局、感動した社長に、後日、制作実費を払っていただけることになったんです。

並河:今の話って、「順序」の話かもしれません。
普段の広告の仕事って、「仕事」として始まって、その後、商品を学んで、「伝える」という順序でいくんですが、オフコマーシャルの場合、「これをどうしても伝えたい」からスタートするんですよね。
「スケジュール」があって「撮影すること」が決まる、という順序ではなく、「撮影したいこと」があって「スケジュール」が決まる、という順序。
「お金」があって「感謝」がある、という順序ではなく、「感謝」があって「お金」が生まれる、という順序。
本当に大切なことが、普段の仕事だと、二番目に来ている。
それを本来の順序、本当に大切なことを一番目に持ってくるのが、オフコマーシャルの試みだと思うんです。

今村:ほんとうにそうかもしれない。考えてみれば、ぜんぶ逆ですね。

後編に続きます。

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